日米にとって中国はビジネスパートナーである半面、政府や政治家はあからさまに公言しないが、本質的に安全保障上の脅威なのだ。
AIIBがアジアにおける中国の縄張りを強める道具と分かっていて、日米は「はい、そうですか」と容認するわけにはいかない。欧州と日米を分かつ鍵は「中国を脅威とみるか否か」である。
日本の経済界には「AIIBに参加しないとインフラ商戦で不利になる」という意見もある。日本が出資すればビジネス機会も平等に与えられるはずだ、という思惑だろう。
これはまったく甘い。実質的に中国が決める案件で日本企業にビッグチャンスが生まれるわけがないではないか。中国がそんな国際常識や礼節をわきまえた国だったら、大量の漁船や公船が傍若無人に尖閣諸島や小笠原諸島に押し寄せてはいない。
いっそ日本も米国も参加すれば「中国の独断専行を封じ込められるのではないか」という見方もある。これも甘い。自分の意見が通らなくなると分かっていて、構想をぶち上げるようなお人好しではない。初めから「本部は北京」と決めているのだ。
AIIBは既存秩序に対する中国の挑戦である。日米は受けて立つ以外にない。
■文/長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年 新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2015年4月10日号