「I am not ABE」のフリップを番組中に登場させた元経産官僚・古賀茂明氏の「報道ステーション」(テレビ朝日系)降板に象徴されるように、テレビから安倍政権批判が消えたと言われるが、では現在の状況は政権支持派にとってプラスになっているのか。答えは否だと、フジテレビの番組審議委員を務めるなど、テレビ報道のあり方に詳しい麗澤大学教授の八木秀次氏は言う。いまのテレビが孕むより深刻な問題を八木氏が分析する。
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昨年の総選挙前、自民党がNHKと在京民放キー局に対し、総選挙の報道にあたって「公平中立、公正の確保」を「お願い」する文書を送り、後日、そのことが明らかになると、政治からテレビに対する「介入」「圧力」だと批判された。だが、その批判は的外れだ。
テレビ局が守るべき規律を定めた放送法は、その第1条で「放送の不偏不党」や「健全な民主主義の発達に資するようにすること」を求め、そのため第4条で「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」と定めている。つまり、自民党は改めて「放送法の通りにお願いします」と言ったに過ぎない。
なぜそうした要望を出す必要があったかと言えば、これまでテレビ局がこの原則を無視し続けてきたからだ。
古くは「椿事件」が有名だ。1993年の総選挙で非自民の細川連立政権が誕生したが、その後、民間放送連盟の会合で、テレビ朝日取締役報道局長(当時)の椿貞良氏が「自民党政権の存続を絶対に阻止し、反自民の連立政権を成立させる手助けとなる報道をする方針を局内でまとめた」という趣旨の発言をしたのである(*注)。
【*注/椿氏は取締役報道局長を解任され、郵政省(現総務省)が放送法違反による放送免許取り消しを検討したが、最終的には行政指導にとどまった】