介護施設の職員3人が入居者の老人を虐待、その模様を撮影していたことが明らかになった。3人は暴行容疑で逮捕されたが、そもそもなぜそのような人物が介護施設で働いているのか。コラムニスト・オバタカズユキ氏はこの国の福祉制度の暗い将来をみる。
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ひどいニュースが、3月31日に飛びこんできた。これは日本の介護福祉の惨状を象徴する事件ではないだろうか。
各種マスコミが報じた内容を総合すると、名古屋市の介護施設で以下のような愚行が発覚し、介護職員3人が逮捕されたのである。
施設の名称は「ケアホームひまわり」。そこの従業員である36歳、29歳、26歳の男性3人が、今年の2月21日の午後7時55分頃、4人の相部屋に入っていた認知症の女性入居者93歳に対し、暴行を加え、その様子をスマートフォンで撮影、動画をLINEで共有していた。
暴行とは具体的に何をやらかしたのか。日本テレビの報道によると、施設を運営する女性社長61歳が、このように説明している。
〈「鼻の中に指を入れて上にかきあげた動画と、あと口の中に手を入れて上下に動かす動画でした」〉
その動画の中には、被害に会った入居者の「いやいや」「やめて」という声も入っていたそうだ。警察の取り調べで容疑を認めた36歳は、「嫌がる様子を見て面白がっていた」などと供述しているらしい。26歳も容疑を認めており、29歳が一人だけ否認。女性社長は朝日新聞の取材にこう答えている。
〈「3人は遅刻が多く、指導したこともあった。悪ふざけをしたのだと思う。被害者や家族には申し訳ない。31日付で解雇する」と話した〉
このニュースを受けて、ネット上で最も多く飛び交っていたのは「人間のクズ」という罵倒だ。私もまったく同感だ。たしかに「悪ふざけ」だったのだろう。しかし、認知症の93歳女性に対して介護職員が集団で悪ふざけをするという「学級崩壊」状態は尋常じゃない。26歳の容疑者のスマホには、別の男性入居者の下腹部の画像も保存されていた、とも報じられている。こいつらの余罪はもっと出てきてもおかしくない。
逮捕され連行中だったか、テレビでジャージ姿の26歳が顔を隠すでもなく歩いている姿を見た。印象は「遊び人風」。サラサラ系の長髪で、眉毛を鋭角に剃っていた。オレオレ詐欺の世界で生きるほどの根性はないが、危険ドラッグなら普通にやっていてもおかしくない半不良、という顔つきだった。
他の容疑者2人の個人情報は知らない。だが、この26歳容疑者の姿を見た瞬間、「えっ、これまでとは違う」と感じた。介護施設での高齢者虐待は年々増加しているが、その発生要因は「教育・知識・介護技術等に関する問題」や「職員のストレスや感情コントロールの問題」あたりが多い。つまり、その仕事のなんたるかを知らぬまま働いていて、なにかのはずみでムカッと来るなりして手をあげてしまう、など、ダメ職員がキツイ仕事の中でおこしてしまう事故が一般的なのである。
それはそれとして今なお介護業界の大きな問題だが、今回の事件は、質が違う。より底が抜けている。ダメ人間ではなく、まさにクズ人間らの所業だ。教育が足りないからそうなった、のではなく、介護にまるで適性がないからそんな非道なことができるのだ。
高齢者介護は日本で最も人材不足に苦しんでいる業界である。募集してやってきた者にダメ人間の気配があったとしても、「働きながら学んでもらおう」と雇わざるを得ない事業者が少なくない。
しかし、今回の事件で3人が行った「悪ふざけ」は、介護の仕事以前に働くこと、社会人であること、人間であることすべてをナメている。動画をユーチューブなどに流したという情報はないが、そのナメ具合は飲食店のバイトの大学生が厨房の洗浄機に入る写真をツイッターにあげて大炎上といったバカッターの愚行どころじゃない。もっと愚かだ。この原因は、教育不足でも仕事のストレスでもない。ありえない雇用の問題ではないか。