東京新聞の社説は大要、次のように書いている。「自民党の国土強靱化を主張する勢力から新たな目標として債務GDP比の案が出てきた。これはまやかしだ」「こんな方便がまかり通れば、だれも真面目に歳出削減に取り組もうとせず、財政危機は高まる」
この主張は分子ばかりに注目した誤りである。
PB黒字化の目標は債務GDP比縮小の大目標から直ちに導かれる。大目標達成には年々の債務GDP比増加率をマイナスにする必要があるが、この条件を数学的に展開した結果、PB黒字化条件が導出されるのである。
簡単にPB黒字化がなぜ必要かと言えば、債務GDP比を減らすためだ。だから「PB黒字化はいいが債務GDP比縮小はダメだ」という主張は本末転倒なのだ。
政府が従来のPB黒字化に加えて、債務GDP比縮小を財政再建目標に据えるのは、成長重視を鮮明にする意味合いがあるだろう。
さらに言えば、消費増税も必ずしも必要でなくなる。増税が成長を阻害するなら、結果として財政再建を達成できなくなるからだ。安倍晋三政権は新目標の設定で2017年4月の追加増税にもフリーハンドを握った形になる。
■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)
※週刊ポスト2015年4月17日号