「南無阿弥陀仏」と一心に唱えれば極楽浄土に往生できるという「専修念仏」を説いた浄土宗の宗祖・法然と、その弟子であり、悪人こそ救われる「悪人正機」を説いた浄土真宗の宗祖である親鸞。この師弟の思想を紹介する高校倫理の教科書に「不適切な記述」がある──浄土宗がそう主張し波紋を広げている。
浄土宗が問題視するのは、2人の教えの関係性を説明する記述だ。昨年度に使われた高校倫理の教科書6社(清水書院、実教出版、数研出版、第一学習社、東京書籍、山川出版社)7冊のうち6冊が、親鸞が法然の教えを「徹底させた」、もしくは「発展させた」と表現していた。
具体例は以下の通りだ。
〈法然の教えをさらに徹底したのが浄土真宗を開いた弟子の親鸞である〉(東京書籍)
〈親鸞は、師の法然の教えを継承し発展させた〉(第一学習社)
この記述に浄土宗の僧侶が反発した。昨年10月、京都で開かれた浄土宗の定期宗議会で、大阪教区の僧侶議員がこんな声を上げた。
「教科書の『徹底』という記述は、法然上人の教えを一歩進めたのが親鸞聖人であり、あたかも法然上人が未完成で不徹底だったとの印象を与えかねない。これでは教科書を読む高校生に先入観を植え付け、将来の信仰にも影響を与えかねない。宗派の見解を問いたい」
それに対し、浄土宗の山本正廣・教学局長が記述に偏りがあることを認め、適切な広報活動を約束した。
本誌の取材に対し、山本氏は書面で次のように回答した。
「現在、『法然上人の教科書記述研究』という対応プロジェクトの準備を整え、また浄土宗の広報、発信力の弱さが今般の一要因ではないかと反省し、教科書の記述がバランスのとれたもの、すなわち教育基本法第15条(編集部注・後述)を尊重された記述になることを願い、『存在感のある浄土宗』を目指していくことが今後の対応でもあるかと存じます」
「徹底」という記述自体は、今に始まったことではない。