個人消費が低迷を続ける中、30代の落ち込みが際立っている。毎月の実収入と消費支出を前年と比較した内閣府のデータでは、30代だけが実収入の落ち込み(0.4%減)以上に消費支出の落ち込み(2.8%減)が大きかった。つまり、30代は収入の減少では説明できないくらい買い物を控えているのだ。
そんな30代が唯一支出を増やしているのはゲーム機やスマホ代だ。「家計調査」などの統計で支出がわずかながら増えている。不動産販売会社に勤める独身の35歳男性はこう話す。
「旅行や外出をすればお金がかかるけど、ゲーム代なら何とか捻出できる。出歩かない分、電話やLINEなど友人付き合いにスマホ代は欠かせません」
買い物に行かず、自宅で趣味のゲームやインターネットに興じる30代。「買いたくても買えない」という経済事情に慣れすぎて、「買う気にならない」という消費意欲の低下も常態化する。企業はあの手この手で30代消費者を誘い出そうとしているが、成果は出ていない。ある自動車メーカー営業マンはこう話す。
「ひと昔前と違って、今は若者に車が全然売れない。CMで昔懐かしい人気ゲームのテーマソングを流すなどして関心をもってもらい、購買意欲を高めようとしているのですが……」
そうした意識の変化を、甲南大学文学部の阿部真大・准教授(労働社会学)は次のように説明する。
「バブル崩壊後の1995年ごろから、日本社会が成長期から成熟期に変化したことが背景にあります。それ以前の世代は高級外車や海外旅行など贅沢な暮らしに対する憧れ、いわばハングリーさがありましたが、消費環境が充実する過程で今の30代は物質的な豊かさにそれほど魅力を感じなくなった。
その代わり、心の充実を求めて自分の趣味や友人とのコミュニケーションに没頭するようになった。それが30代の消費低迷の背景にある」