安倍政権はテレビを屈服させている──そんな言説もあるが、ジャーナリストとして数々のニュース・情報番組に出演してきた大谷昭宏氏は、「テレビの萎縮は政治の圧力による」という一面的見方に与しない。むしろ問題の根底には、テレビと政治双方の、打算的な考えがあるという。大谷氏が分析する。
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テレビと政治の劣化が著しい。そのことをまざまざと見せつけられたのが、東日本大震災から4年という節目を翌日に控えた3月10日、夕方6時から開かれた安倍晋三首相の緊急記者会見だった。
その時間帯はNHK、民放ともにニュース番組を流しており、これまでなら各局横並びで報じて当然のはずだった。ところが、会見を生中継したのはNHKのみ。他の民放各局はニュース番組の放送中であったにもかかわらず、会見から10分余りが過ぎた時間帯にわずか1分前後の録画映像を流しただけだった。
それは「安倍首相の会見は視聴率を限りなくゼロに近づける」と在京キー局幹部がこぼすように、ひとえに首相という“素材”が視聴者に支持されていないからである。
視聴率競争に晒されるテレビ局にとって、数字を下げるだけの首相会見はできれば使いたくない。だから生中継はしなかったのだが、かといって何も報道しなければまた政権サイドからうるさく言われるかもしれないので、仕方なく報じた。それが本音である。
先の衆院選を巡る報道をはじめ、安倍政権はことごとくテレビに圧力をかけてきたつもりかもしれないが、実際には疎まれていると言った方がいい。そして、首相自身もそのことをわかっているから、なおさらムキになっているように映る。