ライフ

存亡危機・PL学園元球児が描くリアル野球漫画にライター感慨

 注目の高校野球漫画が出版された。高校野球取材歴20年のフリーライター・神田憲行氏が胸を熱くする。

 * * *
 その漫画は「コミック モーニング」(講談社)連載中の「バトルスタディーズ」(なきぼくろ著、講談社)第1巻である。帯に「元PL球児が描く超リアル高校野球漫画!」とある通り、舞台は「超名門DL学園野球部」であり、作者の「なきぼくろ」氏は元PL学園野球部だった。

 単行本に紹介された作者のプロフィールを読んで、私はハッとなった。

《9番ライトで甲子園に出場。2回戦で福井商(福井)に敗退。2試合ノーヒットで最後の夏が終わる》

 手元の高校野球の資料をめくると、ぴったりプロフィールに合う学年と選手がいた。「あの学年の子か……」と思わずつぶやいた。

 ペンネームなので書いて良いのか迷ったが、プロフィールにここまで詳細に明らかにしていることから、作者にもなんらかの「覚悟」のようなものがあるのだろう。かつてPL学園野球部寮で、上級生による下級生への激しい暴行が行われた。作者はその被害者の学年である。事態が明るみになり、被害者の学年にもかかわらず長期の対外試合処分禁止の処分が高野連から下された。謹慎があけて、作者と同じ学年のある選手は、

「当時の寮は野球やってる雰囲気じゃなかったです」

 と、絞り出すような声で私の取材に答えている。

 あの選手の顔と、この漫画で描かれているどこかコミカルな世界のギャップに戸惑う。

 しかし単行本見返しにある、主人公・狩野笑太郞のプロフィールにふっと笑みがこぼれた。

《中1の夏、「延長17回の死闘」見て、高校野球の超名門DL学園に憧れる》

 これは1998年の横浜対PL学園の延長17回のことだ。あの試合は私も本を書いている。のちに横浜高校の選手を取材していたとき、私が作者と知らずに、

「延長17回の本を読んで、横浜に進学しました」

 と答えたのに心の中で思わずガッツポーズしたものだ。

 主人公には恐らく作者の気持ちが投影されいるだろう。そうか、作者もあの試合に心を動かされたのか。

 被害者が乗り越えたことを、他人が「君、大変やったやろ」というのはお節介だ。私はこの漫画を全力で応援したい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

愛子さま(写真/共同通信社)
《中国とASEAN諸国との関係に楔を打つ第一歩》愛子さま、初の海外公務「ラオス訪問」に秘められていた外交戦略
週刊ポスト
「アスレジャー」の服装でディズニーワールドを訪れた女性が物議に(時事通信フォト、TikTokより)
《米・ディズニーではトラブルに》公共の場で“タイトなレギンス”を普段使いする女性に賛否…“なぜ局部の形が丸見えな服を着るのか” 米セレブを中心にトレンド化する「アスレジャー」とは
NEWSポストセブン
「高市答弁」に関する大新聞の報じ方に疑問の声が噴出(時事通信フォト)
《消された「認定なら武力行使も」の文字》朝日新聞が高市首相答弁報道を“しれっと修正”疑惑 日中問題の火種になっても訂正記事を出さない姿勢に疑問噴出
週刊ポスト
地元コーヒーイベントで伊東市前市長・田久保真紀氏は何をしていたのか(時事通信フォト)
《シークレットゲストとして登場》伊東市前市長・田久保真紀氏、市長選出馬表明直後に地元コーヒーイベントで「田久保まきオリジナルブレンド」を“手売り”の思惑
週刊ポスト
ラオスへの公式訪問を終えた愛子さま(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
《愛子さまがラオスを訪問》熱心なご準備の成果が発揮された、国家主席への“とっさの回答” 自然体で飾らぬ姿は現地の人々の感動を呼んだ 
女性セブン
26日午後、香港の高層集合住宅で火災が発生した(時事通信フォト)
《日本のタワマンは大丈夫か?》香港・高層マンション大規模火災で80人超が死亡、住民からあがっていた「タバコの不始末」懸念する声【日本での発生リスクを専門家が解説】
NEWSポストセブン
東京デフリンピックの水泳競技を観戦された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年11月25日、撮影/JMPA)
《手話で応援も》天皇ご一家の観戦コーデ 雅子さまはワインレッド、愛子さまはペールピンク 定番カラーでも統一感がある理由
NEWSポストセブン
山上徹也被告(共同通信社)
「金の無心をする時にのみ連絡」「断ると腕にしがみついて…」山上徹也被告の妹が証言した“母へのリアルな感情”と“家庭への絶望”【安倍元首相銃撃事件・公判】
NEWSポストセブン
被害者の女性と”関係のもつれ”があったのか...
《赤坂ライブハウス殺人未遂》「長男としてのプレッシャーもあったのかも」陸上自衛官・大津陽一郎容疑者の “恵まれた生育環境”、不倫が信じられない「家族仲のよさ」
NEWSポストセブン
11月24日0時半ごろ、東京都足立区梅島の国道でひき逃げ事故が発生した(読者提供)
《足立暴走男の母親が涙の謝罪》「医師から運転を止められていた」母が語った“事件の背景\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\\"とは
NEWSポストセブン
大谷翔平が次のWBC出場へ 真美子さんの帰国は実現するのか(左・時事通信フォト)
《大谷翔平選手交えたLINEグループでやりとりも》真美子さん、産後対面できていないラガーマン兄は九州に…日本帰国のタイミングは
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 習近平をつけ上がらせた「12人の媚中政治家」ほか
NEWSポストセブン