注目の高校野球漫画が出版された。高校野球取材歴20年のフリーライター・神田憲行氏が胸を熱くする。
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その漫画は「コミック モーニング」(講談社)連載中の「バトルスタディーズ」(なきぼくろ著、講談社)第1巻である。帯に「元PL球児が描く超リアル高校野球漫画!」とある通り、舞台は「超名門DL学園野球部」であり、作者の「なきぼくろ」氏は元PL学園野球部だった。
単行本に紹介された作者のプロフィールを読んで、私はハッとなった。
《9番ライトで甲子園に出場。2回戦で福井商(福井)に敗退。2試合ノーヒットで最後の夏が終わる》
手元の高校野球の資料をめくると、ぴったりプロフィールに合う学年と選手がいた。「あの学年の子か……」と思わずつぶやいた。
ペンネームなので書いて良いのか迷ったが、プロフィールにここまで詳細に明らかにしていることから、作者にもなんらかの「覚悟」のようなものがあるのだろう。かつてPL学園野球部寮で、上級生による下級生への激しい暴行が行われた。作者はその被害者の学年である。事態が明るみになり、被害者の学年にもかかわらず長期の対外試合処分禁止の処分が高野連から下された。謹慎があけて、作者と同じ学年のある選手は、
「当時の寮は野球やってる雰囲気じゃなかったです」
と、絞り出すような声で私の取材に答えている。
あの選手の顔と、この漫画で描かれているどこかコミカルな世界のギャップに戸惑う。
しかし単行本見返しにある、主人公・狩野笑太郞のプロフィールにふっと笑みがこぼれた。
《中1の夏、「延長17回の死闘」見て、高校野球の超名門DL学園に憧れる》
これは1998年の横浜対PL学園の延長17回のことだ。あの試合は私も本を書いている。のちに横浜高校の選手を取材していたとき、私が作者と知らずに、
「延長17回の本を読んで、横浜に進学しました」
と答えたのに心の中で思わずガッツポーズしたものだ。
主人公には恐らく作者の気持ちが投影されいるだろう。そうか、作者もあの試合に心を動かされたのか。
被害者が乗り越えたことを、他人が「君、大変やったやろ」というのはお節介だ。私はこの漫画を全力で応援したい。