血圧、コレステロール、糖尿……病院に行くたびに処方される薬が増え、気が付けばどの錠剤が何の薬かさえわからない──そんな高齢者は少なくない。当然ながらどんな薬にも副作用があり、そのリスクは歳をとるほど増すというのが医学の常識だ。
ところが、高齢者の服薬に関する研究や専門的知見はほとんど進んでいない。
年齢を重ねるほど「病気」と診断される機会は増え、複数の薬を飲まなければならなくなる。それがかえって高齢者の健康を危険に晒す可能性があるとする衝撃的な発表がなされた。
4月1日、日本老年医学会は「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」を公表した。同学会は2005年に作成した医療従事者向けのガイドラインの10年ぶりとなる改訂作業を進めており、一般からの意見募集を経て6月に正式決定する予定だ。
公表されたガイドライン案の中には、高齢者が「中止を考慮するべき薬物」のリストが含まれ、47種類の医薬品とその使用法が挙げられている。対象となる高齢者が特定の疾患を抱える人に限られるものもあるが、「すべての高齢者」が使用中止を考慮すべきとされる薬も少なくない。
公表されたガイドライン案によれば、これらの医薬品は〈高齢者で重篤な有害事象が出やすい、あるいは有害事象の頻度が高い〉もので、2000本を超える国内外の論文をもとにまとめられたものだ。
同学会の広報担当者は「6月の正式決定まで、作成に携わった専門家は取材を受けられない」とするが、公表された文書ではリストを作成した理由について、〈高齢者で薬物有害事象の頻度が高く、しかも重症例が多いことを背景として、高齢者薬物療法の安全性を高める目的〉としている。
なぜ高齢者に薬物による有害事象が多いのか。東京薬科大学薬学部・加藤哲太教授が説明する。