「糖尿病治療にはカロリー制限」という日本の医学界の“常識”が、世界の最新研究に反することを本誌は3回にわたって追及した。乱暴にいえば日本では「炭水化物(糖質)を摂取させて血糖値を上げさせ、それを薬で下げる」という「マッチポンプ」のやり方が罷り通ってきたわけだが、それは、ただ無駄なこと、カネの問題ではなかった。高齢者にとっては「ポンプ」である治療薬が重大な危険をもたらす可能性がある。
歳をとるほど医者にかかる機会が多くなり処方される薬の種類も増えるが、同時に副作用のリスクも大きくなる。本誌前号では日本老年医学会が4月に公表した「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015(案)」の中で〈中止を考慮するべき薬物〉として挙げられた薬のリストを掲載して大きな反響を呼んだ。
47種類の薬剤、使用法について注意喚起した一覧表の中で、とくに注目すべきなのが糖尿病治療薬だ。
糖尿病は膵臓から分泌されるインスリンの異常により、血液中の糖(血糖)が多くなる病気である。日本人の糖尿病の95%を占める2型糖尿病では、血糖をエネルギーに変えるインスリンの機能が弱くなり、血糖値を正常に戻せなくなる。高血糖の状態が続けば失明、狭心症、心筋梗塞、脳血管障害などにつながる。週に数回の人工透析が必要になる合併症(腎症)が出れば日常生活に大きな影響を及ぼす。
血糖値は食後に急激に上昇するので予防や治療のために食事制限が行なわれるが、本誌は日本では間違った常識が根付いていると指摘してきた。日本糖尿病学会の診療ガイドラインでは、体格などに応じて総摂取カロリーを算出し、そのうち50~60%を炭水化物(糖質)から摂取する「カロリー制限」を推奨する。一方、アメリカでは10年以上前から「糖質」の摂取が血糖値を上げる原因とする考え方が採用されてきた。
1970年代には約200万人と推計されていた日本の糖尿病患者は2012年には約950万人まで増え、予備群を含めると2000万人を超すとされる。時代遅れの食事療法で効果がなければ、患者にはどんどん薬が処方される。日本の糖尿病治療薬の市場規模は3688億円(2012年、富士経済調べ)に達している。