「海外派兵は憲法上できない」としながらも、安倍首相は国会で、停戦合意前のホルムズ海峡の機雷除去も集団的自衛権の範囲で可能、と主張している。20日に行われた民主党・岡田克也代表との党首討論でも、「一般に海外派兵は認められないが、機雷除去は例外」という旨の発言をしている。
安倍首相がホルムズ海峡の機雷除去を集団的自衛権の範囲内だと主張する理由は、海峡封鎖で石油タンカーが日本に来られなくなり、原油価格が高騰して「経済的なパニックが起こる」からだという(5月15日朝日新聞)。
これを「存立危機」という。「存立」概念は自衛権発動の新3要件から盛り込まれた概念で、
《わが国に対する武力攻撃が発生したこと、またはわが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があること》
と説明する(防衛省HPより)。
つまり海峡が機雷で封鎖されることは「わが国と密接な関係にある」産油国への「武力攻撃が発生」したとみなし、石油が日本に運ばれてこなくなって経済パニックが起きてわが国の「存立が脅かされ」るので、「一般的に海外派兵は禁じられているが例外的に」集団的自衛権の行使により、機雷を除去に行く、ということらしい。
なぜ「例外」が認められるのか、憲法の例外を下位規範の法律で作ることにならないか、疑問が残る。
ホルムズ海峡の機雷除去については、与党内でも異論がある。
「公明党はホルムズ海峡が封鎖され日本が経済的な打撃を受けただけでは、存立危機事態には該当しないと主張する」(5月15日毎日新聞)
ひとつの概念だけでこれだけ理屈が錯綜して、与野党で揉めている。まだ他にも、日本の安全のために活動している米軍や他国軍への後方支援や武器弾薬提供を可能にする「重要影響事態法案」、国際社会の平和のために活動する米軍や他国軍への後方支援や弾薬提供をする「国際平和支援法案」(新法)などがある。弾薬提供して「平和支援」なんだから、ややこしいことこの上ない。
しかし難しくて面倒くさい国会審議が始まるが、ぜひ諦めずについていってほしい。
なぜなら政治家と役人が建てた理屈の上に理屈を重ねたてっぺんで踊らされるのは、自衛隊員だからだ。東日本大震災では彼らは我々国民のために身体を張ってくれた。だが機雷除去のために、弾薬を運ぶために、自衛隊員を危険にさらすだけの理由がそこにあるだろうか。
この法案のひとつひとつに、自衛隊員の命がかかっていることを私たちは改めて認識しよう。彼らに命を賭けさせるのも、止めるのも、主権者である私たちしかいない。