安全保障関連法案についての国会が始まった。難しくてわからないという声も多い。フリー・ライターの神田憲行が考える。
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5月15日の朝日新聞朝刊にこんな囲み記事が載っていた。麻生太郎財務大臣が国会議員の妻から安全保障法制について説明するように言われ、安保法制を作った「専門家の専門家」である兼原信克・内閣官房副長官補が説明したところ、「全然わからなかった」と言われたというのだ。麻生大臣は麻生会派の議員たちに、
「有権者、後援会の方々に丁寧に説明して頂けるよう努力していただきたい」
と呼びかけたという。
作った本人から説明されてもわからないものを、国会議員がどうやって国民に説明できるのだろうか。
そもそも、安倍晋三首相が14日に行った安保法制の法案を閣議決定したあとの記者会見も、国民に対する「説明」ではなかった。安倍首相は途中、自衛権発動の新3要件について、ひとつずつ数えるように指を立てる仕草を披露した。五輪招致演説の「アンダーコントロール」のときといい、どうも首相周辺にいる振り付け師は、なにか首相に印象的な動作をさせるのがお好きらしい。だがここはパフォーマンスよりフリップなどを使って丁寧に説明して欲しかった。
また、日本が集団的自衛権によってアメリカの戦争に巻き込まれるのではないかという懸念について、首相はこう言明した。
《海外派兵が一般に許されないという従来からの原則も変わりません。自衛隊がかつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは、今後とも決してない。そのことも明確にしておきたいと思います。》
これに対し、会見後に朝日新聞が実施したアンケートで、
《安全保障関連法案について、安倍首相は、日本がアメリカの戦争に巻き込まれることは「絶対にありえない」と説明しています。この説明に納得できますか。納得できませんか。》
と訊ねたところ、「納得できない」と答えた人が68%にものぼっている。
納得できない理由は、首相が「従来からの原則」というものがいかなるものなのか、何に由来するのかはっきりしないからではないか。「原則」とは、首相の政策方針からなのか、安保法制からなのか、憲法からなのか。
安倍首相に代わって説明すると、これは憲法に由来している。防衛省はHPで「自衛権が行使できる地理的範囲」について、政府解釈を紹介している。
《(前略)武力行使の目的をもって武装した部隊を他国の領土、領海、領空に派遣するいわゆる海外派兵は、一般に自衛のための必要最小限度を超えるものであり、憲法上許されないと考えています。》
ここまでで「ややこしいな」と感じられただろうか。残念ながら、ここからさらに話はややこしくなる。