あれだけ反日を謳う中国共産党政権が、絶対に矛先を向けない唯一の存在が、天皇である。毛沢東、トウ小平から習近平まで中国歴代最高指導者がみな天皇を大事にしているのはなぜか。産経新聞中国総局(北京)特派員の矢板明夫氏が解説する。
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毛沢東やトウ小平の天皇に対する態度は日本国民に対するパフォーマンスの側面もあると言われる。2人とも軍人として日中戦争を直接戦った経験があり、天皇の旧日本軍兵士に対する絶大な影響力を目の当たりにしている。
毛沢東らは戦時中に中国に亡命した日本共産党の幹部らの助言を受け、いかに対日外交を展開するかを研究していたという。具体的な問題で日本の政治家と対立しても構わないが、皇室に十分な敬意を払えば、日本人の心証がよくなり、国民の対中感情は良くなると確信していたようだ。
現在の中国の最高指導者である習近平が天皇を重視する理由は毛やトウとはやや違う。国家副主席を務めていた2009年末に訪日した際に、自分自身の政治地位を安定させるため、天皇の権威をひそかに利用していた。日本メディアに大きく報じられた「特例会見」のことだ。
当時、習訪日の日程決定が遅くなり、天皇と会見したい旨を日本側に伝えたときは、すでに宮内庁が定めた「1か月前に申請する」とのルールに間に合わなくなり、一旦は拒否された。
習はあらゆる外交ルートを使って民主党政権に圧力をかけた。最後に「特別扱い」で会見が実現した。しかし、その強引な手法が日本国内で波紋を広げ、親善のために訪日したはずなのに、日本国民に残した印象はけっして良くなかった。
わずか20分余の表敬訪問のために、習が必死になってこだわった理由は、中国国内の政治にあった。当時の習は党内で序列6位。ポスト胡錦濤世代の中で最も高位にあったが、後継者としての地位はまだ完全に固まっていなかった。ライバルである序列7位の李克強副首相(現首相)に逆転される可能性が僅かながらあった。