名門・灘校(灘中、灘高等学校)から、日本最難関といわれる東京大学理科III類(医学部/通称・理III)に合格した3兄弟の母・佐藤亮子さん。3男1女の幼児期の育て方から大学受験までのノウハウを公開し、子供の無限の可能性とともに、母親という存在の大きさを改めて教えてくれる著書が注目を集めている(『「灘→東大理III」の3兄弟を育てた母の秀才の育て方』角川書店)。理III3兄弟は一日にしてならず――。テレビなし、3歳まで叱らない、“お兄ちゃん”と呼ばせないなど、佐藤家の独自ルールを貫く“子育て哲学”を聞いた。【後編・家庭編】
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【学ぶのに、早すぎることはない】
――佐藤さんの教育は、幼少期から始まっていますね。絵本を「1万冊」読み聞かせたとか。
佐藤:私は「読み・書き・そろばん(計算)」を学ぶのに早すぎることはないと思っています。4人とも1歳から公文に通わせると同時に、絵本の読み聞かせをし、カセットテープやCDで童謡を流していました。絵本って簡単ですから、1日10冊読めば、3年で1万冊。あっという間なんです。絵本は日本語が美しいだけではなく、人を助けて仲良くすることを学べるなど物語も素晴らしい。精神的にもやさしくなれますよね。
うちは、生活や勉強を主にするリビングにテレビを置いていなかったんです。テレビに時間を取られなかった分、絵本をたくさん読めたというのもありますね。
――なぜ、お子さんにテレビを見せなかったんですか。
佐藤:そもそもは、長男が生まれて子育てでドタバタしているときに、居間で主人がテレビを見ていて羨ましくなって(笑)。それで、2階の部屋にテレビを持っていたんです。2階に行けば見られるわけですが、不思議なことに、私も主人もほとんど見なくなった。テレビがない生活は、それはそれで快適で、子供たちにも見せないのが習慣になりました。だから、「テレビは見せない主義!」だったわけではなくて、自然な流れだったんです。私は最近まで「キムタク」の存在を知らないくらいでした。
「1時間だけ」「ドラえもんだけ」と、制限を設けてテレビを見せるご家庭もありますよね。でも、特番の時はどうしようかと考えなくちゃいけないし、あと10分だけ、など、なし崩しになっていく可能性もある。そういうのが面倒なので(笑)、私としては、子育ては「0か100」という考え方でやってきました。
――子供をほめて育てるか、叱って育てるか、でも悩まれたとか。
佐藤:育児書などを読んで悩んだ結果、私は「3歳までは怒らない」と決めました。子供は、大人がいないと生きていけない弱い存在です。親と対等ではない存在に対して感情的に怒るのは違うなと考えたんです。もちろん子供ですから危ないことをすることはあります。そういう時は「ダメ」ではなく「危ないよ」と言う。表現に心をくだきました。ただ、2男、3男と増えるにつれて、上には怒るようになったものですから、3歳という年齢は下方修正されていきましたが(笑)。
――やはり「0か100」なんですね。
佐藤:私も、もちろん迷ったり悩んだりするんですが、最終的に、決断することが重要だと思います。決めるというのは、親が責任を持つこと。間違いに気づいたら、その時点で修正すればいいんです。中途半端が一番よくないと思っています。
【勉強を「生活の一部」にする方法】
――他にも佐藤家には、独自のルールがあります。“お兄ちゃん”と呼ばせない、というのもユニークだと思いました。これはなぜでしょう。
佐藤:兄妹は徹底的に公平にしたいという考えからです。たまたま少し早く生まれてきたというだけで、“お兄ちゃん”を強いられるのは可哀そうだし理不尽だと思うんですね。親が死んだ後も兄妹は仲良くしてほしいというのが私の願いです。そのためにも、上下関係を極力付けないよう腐心しました。とはいえ、特に幼少期は身長などに物理的な差がありますから、どうしても上下関係はできるんです。せめて“お兄ちゃん”ではなく、名前で呼び合うことで、フラットな関係を作りたいと思いました。
また、兄妹を比べないというのも私のポリシーでした。受験は“自分との闘い”なんだと、子供たちに言い聞かせてきましたね。
――子供部屋を作らず、居間で勉強させるなど、環境も佐藤家ならではです。
佐藤:食事と勉強に、できるだけ距離を持たせないためですね。居間に勉強机を置いておくと、食事の後に、子供がだらだらすることも少なくなりますし、私自身も勉強の様子を見やすいんです。食事と勉強を同じ空間にすることで、勉強は特別なことではなくて、より「生活の一部」になるとも考えました。