「フォッ、フォッ、フォッ」──地面に片手をつき、横向きに座ったような体勢で、並べたクルミを次々と尻でつぶしていく。すべてをつぶしてドヤ顔を見せるのは、チェリー吉武(34)。日本一多くギネス世界記録を持っている「ギネス芸人」である。
「オレ、芸人なんですけど、しゃべりがダメなんス。でも尻には自信があって……。それでこの記録に挑戦しました」
尻で割り箸を割ったり、コーラの栓を抜いたりといった「お尻芸人」として活動するも、全く売れていなかったチェリーに転機が訪れたのは2年半前。英BBC放送の特番企画の話が舞い込んだのだ。その内容が「尻でクルミを割る」というギネス記録への挑戦だった。
「聞いた瞬間に、『オレの尻なら絶対ヤレる』と思いました」
それまでレコードホルダーだったのはスペイン人男性。
「彼は両足を踏ん張り尻を垂直に落とす“クラブ(蟹)スタイル”でした。オレは独自に研究を重ね、横向きに座りながらクルミを割る“シュリンプ(海老)スタイル”を編み出したんです。この方法をギネスに伝えて、細かなチェックを受けた後に承認されました。審査は意外と厳しいんですよね」
目標が決まれば特訓あるのみ。口より尻で勝負してきた男は、神社の境内や人通りの少ない道路などで、日夜クルミを割り続けた。掌は流血し、尻は腫れ上がった。そんな努力の甲斐あって、本番では30秒間で48個のクルミをつぶすことに成功。見事、『30秒間にクルミを尻でより早くたくさんつぶす』のレコードホルダーとなったのだ。
その後のチェリーの挑戦は尻だけに留まらず、『箸を使ってより早くたくさんゼリーを食べる(1分間663グラム)』『カニ歩きで20メートルをより速く歩く(7秒78)』『目隠しして10種類のフルーツの銘柄を最速で当てる(9秒35)』などの世界記録を次々に樹立。現在では、6個の世界記録を持つイチローや吉田沙保里といった国民的英雄の倍となる、12個ものギネスレコードを保持するまでとなった。
「でも、記録って抜かれれば価値がなくなる儚いものなんです。だから、まだまだ挑戦し続けたいと思います。ギネスは2位じゃダメなんですからね!」
撮影■渡辺利博
※週刊ポスト2015年6月12日号