日本は中国に遠慮しているのかといえば、そうとも言えない。中谷元防衛相はシンガポールで開かれた日米豪3か国防衛相会談で中国の岩礁埋め立てに強い懸念を表明する共同声明を出した。

 安倍政権が中国を脅威とみて強い警戒感を抱いているのはあきらかなのだが、国会論議となると、野党が正面から追及してこないせいもあって、おずおずとしたモノ言いになっている。

 国民の間で安保法制見直しについて理解が深まらないのは、そんな本音と建前の使い分けが大きな理由ではないか。国民が置いてけぼりにされているのだ。

 政府も与野党もプロたちは本音では「安保法制を見直す本当の理由」が分かっているのに、国民には建前の「国会カブキ論議」を見せている。だから話が抽象的かつ複雑すぎて何が何だか分からない。そんな状況に陥っている。

 だが、事態は建前の議論でやりすごせるほど甘くない。米国と中国は一部で「このままだと戦争になる」という声も飛び出すほど、一触即発の緊張状態に突入した。

 自民党は遅まきながら、中国を脅威と認めるビラを配り始めた。建前論議が現実に追い越されないように、国会終盤は政府も与野党も本音で問題の核心に迫るべきだ。

■文・長谷川幸洋(はせがわ・ゆきひろ):東京新聞・中日新聞論説副主幹。1953年生まれ。ジョンズ・ホプキンス大学大学院卒。規制改革会議委員。近著に『2020年新聞は生き残れるか』(講談社)

※週刊ポスト2015年6月19日号

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