気象庁が6月1日に発表した気象白書『気象業務はいま 2015』にはこんな記述がある。
〈予知された地震の場所、時期、規模のどれか一つでも曖昧に扱われることがあれば、予知は一見当たったように見えてしまいます。これらは科学的な地震予知とは言えません〉
〈地震予知手法の確立には数多くの観測事例の蓄積に基づく科学的な検証が必要なのです〉
どの口がいうか、である。気象庁を中心とする地震や火山の「予知ムラ」がやってきた“成果”を見れば、そうした記述が見苦しい言い訳でしかなく、危機を深刻に受け止めている国民をバカにしていることがハッキリわかる。
気象庁は白書発表に先立つ5月21日、気象庁記者クラブで白書についてレクチャーし、個別取材に、「特定の地域を挙げて地震が起きるとする雑誌記事に『噂は本当か』と問い合わせがあり、疑問を解消したいと考えた」と答えている。
それを受けて新聞各紙は「気象庁は雑誌の記事などに、科学的な根拠がないと苦言を呈した」(日本経済新聞28日付夕刊)などと報じた。
「予知ムラ」の家来に成り下がったクラブ記者が役所にいわれるまま検証もせず記事を垂れ流す弊害は、本稿では紙幅が足りないので措く。何よりふざけているのは“長年研究してきた自分たち以外の予知は信頼に値しない”という物言いだ。
日本地震学会は東日本大震災を全くノーマークにしていたことを受け、〈確度の高い予知は現状では困難〉とあり得ない自己弁護を展開し、2012年10月に「予知」を「予測」と言い換える姑息な方針転換を表明。全国の地震に関する情報交換の場である地震予知連絡会でも、「予知」という組織名称の変更が議論された。
火山の噴火予知も同様だ。気象庁が主導する噴火予知が成功した例は、2000年の有珠山噴火に先立って1万人が避難したケースのほか数例のみである。
57人が犠牲になった昨年9月27日に起きた御嶽山の噴火では、9月10日昼頃から火山性地震が増加し、同11日には85回発生していたにもかかわらず、噴火が起こるまで御嶽山の警戒レベルは最も低い「1」だった。
そのことに批判が上がると火山噴火予知連絡会(気象庁の諮問機関)の藤井敏嗣・会長はこう開き直った。
「予知に失敗したというかもしれないが、ある意味では仕方のない状態。われわれの火山噴火予知に関するレベルというのはまだそんなもの」
予知連が自費で研究をしているのなら、その言い草も許されるかもしれない。しかし、彼らの研究には莫大な血税が投入されている。
地震と火山を合わせた研究関連予算は昨年度だけでも253億円、この20年間で総額4300億円に上る。
それでも「予知なんかできない」というなら、彼らの存在意義などないに等しい。国民が知りたいのは「予知できない言い訳」ではなく、「予知」なのだ。