こうしてみると、数々の改革は労働者の味方なのか疑問が沸いてくる。一体、安倍政権は労働政策にどんな理想形を描いているのか。溝上氏がいう。
「安倍政権はしきりに『雇用の流動化を図る』といっていますが、結局は要らない社員を外に吐き出して身軽になりたいという経済界の要請に乗っかっているだけ。そして、あぶれた社員は新しい成長産業に移動すればいいと虫のいい考えを持っています。
しかし、いまの日本の成長産業といったら、誰も行きたがらない3K職場の介護分野ぐらい。セーフティーネットも整わない中で、“失業なき移動”がスムーズに進む可能性は低いでしょう。数々の制度化によって会社の裁量権が大きくなる一方、労働者の権利はますます狭められ、弱い立場に追い込まれることになります」
社会保険労務士の稲毛由佳氏も、安倍政権の強引な労働市場改革には首をひねる。
「安倍首相が目指している政策は、欧米のように競争社会を促し、その中で生き抜ける人を主軸にした弱肉強食のものばかり。
でも、日本は突出する人材を多く生む土壌ではありませんし、そもそも『実績を出せば文句はないだろう』と個人プレーでやっていけるスーパービジネスパーソンは少数といえます。可もなく不可もない人たちの総合力で勝負する国民性といっても過言ではありません。
そうしたスタンスを否定して脱落者を生みっぱなし政策を取りつづければ、賃金も含めた労働格差は広がる一方ですし、人材の流動化に結びつくはずがありません」
先ごろ政府がまとめた新しい成長戦略の骨子には、産業の新陳代謝や専門職人材の育成などにより、労働生産性を抜本的に高めていく――と改めて示された。少子高齢化で働き手不足も叫ばれる中、本当に労働市場を活性化させたいのであれば、むしろ“労働弱者”の受け皿を拡充させるほうが先決なのではないか。