平時は気付かないが、危機にあってこそ国家も個人も本当の力や“素”の姿が晒け出されるものだ。中東呼吸器症候群(MERS)の猛威に対する韓国政府と一部の国民の対応は、それを改めて思い知らせた。
韓国国内のMERSによる死者は23人、感染者は165人に上り、自宅や医療機関での隔離対象者は約6700人に及んでいる(18日現在)。初動対応の不手際から感染者を多数出した挙句、隔離対象だった日本人を無断で帰国させるなど、すでにパニックは国境を越えてしまった。
隔離対象者に日本人が含まれている、というニュースが流れたのは6月15日のこと。「ついに日本人にも感染者が」という衝撃は瞬く間に国中を駆け巡った。検査の結果は陰性だったというが、すぐに別の問題が持ち上がる。その日本人は2人いて、韓国からすでに帰国したというのだ。
「通常、韓国では感染の恐れが高い場合は医療機関に隔離され、低い場合は自宅隔離となる。隔離対象になった者は2週間の出国禁止措置が講じられる。邦人の感染情報は世界保健機関(WHO)のメーリングシステムを通じて、速やかに日本に伝えられることになっている」(厚労省結核感染症課)
ところが韓国保健福祉省は今回の件に関し、2人は韓国内の病院に立ち寄った可能性があると把握したものの、優先順位の低い自宅隔離扱いだったために、空港での出国禁止措置の手配が遅れたと説明している。
該当の邦人2人は現在、保健所により健康観察が行なわれている。日本の医療制度は他国と比較しても見劣りはしないから患者にとっては良い結果かもしれないが、感染症を広げている当事国の対応としては大いに問題が残った。
岸田文雄外相は韓国政府との情報共有について「しっかり行なっている」と強調したが、出国前に通報があったかどうかについては言葉を濁した。18日には菅義偉官房長官が、3人の韓国人を含む計6人の健康監視対象者が日本に入国していたことを発表(うち4人は監視期間を過ぎていた)。日本政府は空港など水際対策の強化に乗り出していることをアピールしているが、こうも簡単に破られては「安心しろ」というほうが無理だ。
事実、日本人だけでなく、韓国帰りのチェコ人男性も感染の疑いで帰国後に本国で隔離された。