「早期発見、早期治療で、いまや胃がんは治る」──そんな啓蒙のもと、毎年1000万人以上が健康診断や人間ドックで「バリウム検査」を受けている。
だが、国立がん研究センターが推奨するこの検査には見逃しが多い上に、死亡事故まで起きていることをご存じだろうか。巨大な利権ビジネスとなった胃がん検診の実態を取材してきたジャーナリスト・岩澤倫彦氏が、バリウム検査に潜む問題を明らかにする。ここでは、群馬県で発生した日系ブラジル人女性の死亡事故について、その状況を解説する。
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東京大学腫瘍外科・元講師で、消化器内視鏡のスペシャリストである田淵正文医師はこんな指摘をする。
「バリウムX線検査は、はっきりいって30年前の理論です。凹凸の変化が出る(*注)のは、ある程度がんが進行している状態ですから、早期がんは見つからない。それで数多くの人が命を亡くしているわけです。内視鏡で検査すれば確実に早期で発見できるのに、見殺しにしているようなものです」
【*注:粘膜内の凹凸をバリウム検査では調べるが、早期がんではこの凹凸が出ない。内視鏡で表面の色を見て発見することが最新のやり方だ】
バリウム検査そのものにも危険がある。
PMDA(厚労省所管の独立行政法人・医薬品医療機器総合機構)に報告されたバリウムの副作用のなかには、バリウムが体内で固まり、臓器に穴を開ける重大な事故(穿孔/せんこう)が多数含まれていることがわかった。
「大腸穿孔(憩室/けいしつ含)=33人」「直腸穿孔=4人」「消化管穿孔=6人」といった具合に、昨年度分の報告だけで実に50人(40代以上を対象)。
腸管が破れると命に直結する。緊急手術によって腸を一部切除したり、人工肛門が設置されたりするケースが多い。その他、6人が腸閉塞になり、80代男性1人が死亡した。
これらは氷山の一角でしかない。PMDAに報告されるのは、患者や家族が被害救済を求めていることが前提のため、制度を知らない人のケースは含まれていないからだ。