【書評】『切り捨てSONY リストラ部屋は何を奪ったか』清武英利著/講談社/本体1600円+税
清武英利(きよたけ・ひでとし):1950年宮崎県生まれ。立命館大学経済学部卒業。元読売新聞社記者。2011年に読売巨人軍球団代表を解任され、フリーのジャーナリストに。『しんがり 山一證券 最後の12人』(講談社)で講談社ノンフィクション賞受賞。
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
ソニーがソニーでなくなって久しい。かつてのウォークマンが象徴するような独創的で“カッコイイ”製品はもはや博物館の中でしか見られない。先頃発表された2015年3月期の連結決算は、家電業界で一人負けと言われた前年とほぼ同レベルの1259億円の赤字だったが、数字以上に深刻なのはソニーらしさの消失である。
創業者の一人、井深大氏がすでに亡くなり、もう一人の盛田昭夫氏も経営の一線から退いていた1999年から、ソニーは数次にわたってリストラを行い、それは今も終わっていない。その間の削減数の目標は総計で実に8万人超。本書はそのリストラに遭い、退職していった者たちの目を通して描くソニー凋落の歴史と真実である。
「セカンドキャリア支援」という美名のもとに社内失業者が送り込まれる「追い出し部屋」。そこでは仕事も雑用も与えられず、陰に陽に早期退職を促され、結局は心が折れてしまう者が多い。いったん送り込まれるとまず元の職場に戻れないことから「ガス室」とも呼ばれる。だが、リストラ対象者へのそうした非人間的処遇はソニーに限ったことではない。
本書が前編を通して描くのは、ソニーがリストラによって「無駄」を削ぎ落としながら、「ソニーらしさ」を切り捨てていったという事実である。たとえば、ソニー社内では伝統的に〈「出過ぎたクイは打たれない」「出るクイは伸ばせ」という言い伝えがあった〉。
だが、先代社長ハワード・ストリンガー氏が社員から意見を公募したのに応じ、上司を介してストリンガー氏との面談を求めたある社員は、上司や人事部に叱責され、結局、リストラ部屋送りとなった。