習近平・国家主席の権力基盤が安定すれば、中国は対日外交で友好姿勢に転じる。そんな楽観論が報じられているが、激しい権力闘争に終わりは見えない。無期懲役の判決が下った周永康・前党政治局常務委員に続くターゲットは、李鵬・元首相に絞られた。
中国の長江(揚子江)で6月1日に起きた大型旅客船「東方之星」の転覆事故は死者431人を出す大惨事となった。その原因について、北京では次のような小道消息(口コミ)が流れている。
「事故発生時、暴風雨で長江上流の三峡ダムには水があふれ、決壊の恐れがあったため大量に放水していた。それによって長江の流れは速さを増し、『東方之星』は急流に翻弄され転覆した」
三峡ダムについては事故後、軍などによる救助作業に配慮して放水を停止したという“美談”が報じられた。しかし、口コミが事実なら美談どころか事故の“真犯人”だったことになる。北京の中国共産党筋はこうみる。
「船の改造によって転覆が引き起こされたとの説もあり、事故原因の特定は難しいが、このような口コミが流れること自体、政治的な思惑が絡んでいることが多い。カギは『三峡ダム』にある」
三峡ダムは2009年に完成した世界最大規模のダムで、年間発電量は1000億kWh。日本の2014年度の発電量は年間8938億kWhなので、その巨大さが分かろう。
中国で「三峡ダム」といえば、10人中10人がある長老幹部の名前を挙げる。李鵬・元首相だ。李は、日本では1989年6月の天安門事件で戒厳令を敷き、人民解放軍を動員して民主化を求める学生や市民を弾圧した保守強硬派として知られるが、中国では三峡ダム建設を積極的に推進した人物としての方が有名だ。
李の名前が挙がるのは巨大事業の立て役者、ヒーローとしてだけではない。総額約2500億元(約5兆円)の建設資金のうち1374億元(約2兆7480億円)を占めるダム基金の大半を私物化したなどの不正疑惑が囁かれてきたからだ。