「胃がん早期発見のため」という謳い文句で推奨され、年間1000万人以上が受けているバリウム検査で、見逃しが多い上に死亡事故まで起きていることを告発した週刊ポスト(2015年7月3日号)のレポートは大きな反響を呼んだ。
命を救うどころか危険に晒しかねない検診が続く背景には、バリウム検査を存続させたい「検診ムラ」の利権構造があった。
東京・有楽町駅前にそびえ立つ巨大複合ビル、有楽町マリオン。その裏側に、ひっそりと静まり返ったエントランスがあり、エレベーターで13階に上がると、公益財団法人・日本対がん協会の本部オフィスがある。一番奥に位置する会長室の主は、国立がん研究センターの元総長・垣添忠生氏。
「マリオン(日本対がん協会)は、国立がん研究センター総長の指定席ですよ」
これは天下り人事を揶揄した医療関係者の言葉だ。同センターの斎藤博部長は協会の評議員になっている。だが、国のがん検診の在り方について決定権を握る人物が同協会の評議員を務めることには疑問が生じる。なぜなら、日本対がん協会は国内最大の検診実施グループだからだ。
同協会は、がん撲滅を目的に朝日新聞社の80周年事業として、1958年に設立された。乳がん啓発のピンクリボンフェスティバルなど、がん患者の支援活動が目立つが、同協会のウェブサイトではこう記している。
〈日本対がん協会グループを構成する提携団体の基本はがん検診事業です〉
日本には400を超える検診事業団が存在するが、全国の46道府県に支部を持つ同協会の42支部だけで約1000台の検診車を保有し、全国の市町村の7割から、がん検診を委託されている。
同協会のグループ全体の経常収益(収入)を足し合わせると779億円になる(情報の開示に応じなかった沖縄と京都を除く)。自治体のがん検診は、胃がん、肺がん、大腸がん、乳がん、子宮がんの5つ。最も単価が高いのは胃がんのバリウム検査で、自治体が投じる予算は年間約600億円にのぼる。
その他に、公営ギャンブル事業からの寄付がある。自治体のがん検診ではおなじみの検診車に必ずといっていいほど公営ギャンブル事業系のロゴマークが入っているのはその証しだ。