【著者に訊け】芦崎笙氏/『公器の幻影』/小学館/1600円+税
主人公は東西新聞社会部記者〈鹿島謙吾〉。彼が昭和2年の金融恐慌当時の紙面を繰りながら、結果的には取り付け騒ぎや連鎖倒産の引き金を引くことになった往時の記者に思いを馳せるシーンがある。〈そのような事態を惹き起こすかもしれないという緊迫感と、しかし実態は実態としてありのままに世の中に伝えるべきという使命感と、記者である以上は誰よりも先に書きたいという功名心と〉──。
芦崎笙(あしざき・しょう)著『公器の幻影』は、現役財務官僚の横顔も持つ著者にとって3作目となる長編社会派小説。福岡の地方紙から大新聞に移り、〈大物政治家の不正を追及してクビを取ってみたい〉と言って憚らない敏腕記者を軸に、先輩記者〈忠内〉や、憲政党政調会長〈吉住英三郎〉らの間で交錯する各々の正義と野心を描く。
そのような事態とは、今回は約10年ぶりに審議が再開した臓器移植法改正の行方。増えない国内ドナー、海外での移植に望みを託す患者たち、渡航移植の制限に傾く国際世論の中でペンの力はどう作用するのか──。
昨年、日経小説大賞受賞作『スコールの夜』で作家デビューした芦崎氏の現職は、財務省大臣官房審議官(関税局担当)。自身、TPP交渉等、難しい案件を扱う中では、「書かれたくないことを書かれたくないタイミングで書かれた」ことも。
「もちろんメディアが使命を果たしてこそ国民の知る権利は保障されるわけですし、ある記事が出たことで大臣の想定問答を用意するために僕らが休日出勤する苦労は別に構わない(笑い)。ただ、その良かれと思った行為が国益を損ねる場合もあるし、特に臓器移植ともなればいつどんな記事が出るかで審議の行方や患者の命すら左右しかねない」