今月、「危険ドラッグ」の販売店が全国で一掃されたというニュースが流れた。昨夏に「脱法ハーブ」を「危険ドラッグ」に改称してからわずか1年のこと。その摘発の速さに拍手を送りたくなる一方、きな臭いひっかかりも感じる。コラムニストのオバタカズユキ氏が語る。
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唐突である。捜査当局や捕まえられる側、あるいは薬物の専門家や危ない世界のマニアの間では当然の帰結だったのかもしれないが、平凡な一国民としては突然ニュースの矢が飛んできて驚いた。ひとまず、7月9日から10日にかけて流された、主な記事の見出しを列挙してみよう。
・危険ドラッグ、最後の販売店摘発…残るはネット-読売新聞-9日
・危険ドラッグ店、ゼロに 販売容疑で最後の2店舗摘発-朝日新聞-10日
・危険ドラッグ:国内最後2店舗が閉鎖 経営者ら逮捕-毎日新聞-10日
・危険ドラッグの街頭店舗壊滅=最後の2店が実質閉鎖-時事通信-10日
・危険ドラッグ店「全国で消滅」、東京・歌舞伎町で最後の摘発-TBS-9日
・危険ドラッグ販売店“ゼロ”に 歌舞伎町2店摘発-テレビ朝日-10日
・危険ドラッグ販売店「全国で壊滅」-NHK-10日
日経や産経も同じニュースを流していたが、見出しが長ったらしいので省略した。伝えている内容はどの報道機関もほぼ一緒。要は、歌舞伎町に2店だけ残っていた販売店の経営者らが逮捕され、危険ドラッグを街頭で売る店はついに国内ゼロとなりましたよ、という報道である。
危険ドラッグはどう考えてみても存在自体が悪だから、喜ぶべきニュースなのだろう。ただ、誤解を恐れずに言えば、「こんなに素早く壊滅できるって、ちょっと異様じゃない?」と気味の悪さを感じた。
なぜなら、警察庁と厚生労働省がそれまでの「脱法ハーブ」「脱法ドラック」の呼称を、「危険ドラッグ」に改めると発表し、話題となったのは去年の7月22日なのだ。それから「壊滅」までたった1年しか経っていない。
去年の6月に東京・池袋の繁華街で危険ドラッグを吸った男が車を暴走運転、歩行者7人をはねて死傷させた事件以来、連日、この厄介な薬物についての報道がなされていた。私も当サイトにこの問題に関するコラムを寄せたのだが、当時はこんなふうに説明されていた。
<ご存知の通り、「危険ドラッグ」は化学構造の一部を変えた新しいブツが容易につくられるため、いくら違法指定してもキリがない厄介な薬物だ。また、覚せい剤や大麻と違い、規制物質の有無を確かめる簡易検査キットがなく、現行犯逮捕ができないともいわれている>
自分のコラムからの引用だが、あの頃は新聞でもテレビでも、みんなそう言っていたのである。どんなにがんばって違法指定しても化学構造をすぐに変えて新しいブツを売りに出すからいたちごっこになってしまう。酒気帯びのように専用機で検出できるわけもなく、実に困った問題なのだ、と専門家は誰しもが眉間にしわを寄せていた。
そして、一日に何人もの逮捕者のニュースが流れ続けた。当初はヘンだと感じていた「危険ドラッグ」というネーミングセンスもすぐ気にならなくなり、いったいこの薬物問題はどこまで大きくなるんだと途方もない気持ちになっていた。
ところが、だ。今回の報道によれば、去年の8月が問題のピークで、そこから先は順調に解決へ向かっていたようなのである。NHKのニュースは次のように説明している。
<去年8月、幻覚などの健康被害を引き起こす成分が含まれていないか検査し、その結果が出るまで販売を停止するよう求める「検査命令」が全国で相次いで行われました。その結果、厚生労働省によりますと、危険ドラッグを販売する店舗は去年3月の時点では全国で215店に上っていましたが、去年9月には3分の1近くにあたる78店に減少しました>
そう言われてみれば、去年の秋以降は、あまり危険ドラッグがらみのニュースを見なくなっていたような気がする。NHKはこう説明を続ける。
<さらに薬事法が医薬品医療機器法に改正されたうえ、法律で規制された危険ドラッグでなくても同じような毒性があるなどと疑われる場合、全国一律で販売を停止できるようになりました。その結果、ことし1月に7店舗にまで減り、さらに4月には今回摘発された東京・新宿歌舞伎町の2つの店舗だけになっていました>
ていねいに新聞を読むなりしていれば掴めていた情報なのだろうが、まず8月の段階で「検査命令」なる手法を使って取り締まりを強化していたのだ。よく調べてみると、この段階では取り締まりの「行き過ぎ」を指摘する声もあったようだ。だが、当時はとにかく危険ドラッグの蔓延に対する嫌悪感や恐怖心が国民的に高まっていたから、「警察はなにをもたもたしているんだ」という空気のほうが強かった。「行き過ぎ」問題が議論されていた記憶はない。