数字がすべてではないものの、残った数字には相応の意味があると考えることも必要だろう。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が、フジテレビの新しい月9ドラマについて分析した。
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初回視聴率が「月9 まさかの1桁発進」と話題の『恋仲』(フジ系月曜午後9時)。一般紙も「初めて1桁に」などと報じ、ちょっとした社会的話題となっている。
フジテレビ「月9」といえば「東京ラブストーリー」「ロングバケーション」等々、有名な恋愛ドラマを生んできた看板枠。今回はその「原点回帰」を目指す、と亀山社長の力の入れようも際立っていただけに、蓋を開けた時の世間の風の冷たさにびっくりした関係者も多かったのでは。そもそも、フジテレビにとって「月9」とはどんな意味を持つのか?
「旬の人が出ているキラキラしたもの」(亀山千広社長)であり、支える3要素とは「ラブストーリー」「オリジナル」「旬の俳優」だという(日刊スポーツ6月30日)。今回はそこに最大限注力したという『恋仲』。なのになぜ、視聴率1桁?
フジが自ら示した3要素--「ラブストーリー」「オリジナル」「旬の俳優」から、もう一度このドラマについて考えてみたい。
●ラブストーリー
あらすじは……上京して建築事務所で働いている主人公・三浦葵(福士蒼汰)。しばらくぶりに、初恋の人で幼なじみ・芹沢あかり(本田翼)と再会することに。第一回目の放送は、二人の高校時代の回想シーンが大半を占めた。
浴衣姿で花火デートできれば最高の幸せという、告白はしていないけれどいわば両思いの主人公カップル。そこへ、蒼井翔太(野村周平)が微妙に絡んできて三角関係に……。と、「恋愛」話に終始。他の要素はつけ足し程度で、「恋愛至上主義」への意欲はたしかに伝わってくるのだが……。「月9原点回帰」を意識しすぎたか、「恋愛エピソード」に絞り込んだことが返って弱点となり、展開の単調さにつながっているように見える。
たとえば最近注目された「恋愛系ドラマ」と対比してみると、今回の『恋仲』の特徴がより浮かび上がってくる。
2015年1月スタートの『デート~恋とはどんなものかしら~』(フジ系)はニート、高等遊民、リケ女。昨年10月に話題を集めた『きょうは会社休みます。』(日テレ系)は、仕事場とこじらせ女子、壁ドンと年下男子といったアイテムが光った。また、主婦の不倫が話題になった『昼顔』(2014年7月フジ系)は、パート主婦、セックスレスといった要素を上手に織り込んでいた。いずれも「恋愛」とさまざまな周辺要因が絡みあって物語が進んでいた。
一方、今回の『恋仲』は、「純愛」エピソードの比重がとても高そうなドラマ。恋愛をめぐる人間関係を抽出しストーリーを構成していくスタイル。以前ならばそれも成立したのかもしれないが、すでにこのスタイルは限界を迎えているのかも。
考えてみれば、人が社会的な存在である以上、周囲の人々や時代・社会的状況、暮らす土地の文化や慣習といったこととの関係はいやでも生じる。そうした要素をドラマの中で生かせなければ、「昔こういう恋愛物ってあったよね」という古めかしさばかりが目立ってしまう。
●オリジナル
原作は無く、脚本家の純粋な書き下ろし。フジ・大多亮常務は「昨今のテレビは、オリジナルでラブストーリーをやれる枠がほとんどない」「月9は基本はオリジナルラブストーリーをやり続けなければいけないという思いで『恋仲』をやる」(日刊スポーツ同)と、堂々とオリジナル志向を語っていた。
そこまで力が入っているのだからどんな斬新さ、独自性を見せてくれるのか期待したが……幼なじみ同士、好きだけれど相手への思いが口にできない、すれ違い。三角関係。父親の事業が倒産し、暴力団が借金返せと押しかけて、夜逃げ。なんとベタな展開。なんという既視感。なんと見飽きたストーリー。そんじょそこらにころがっていそうな「エピソード」のパッチワーク。オリジナルの力とはこういうことを指すのかと、疑問を感じた人も多いのでは。