「いまも現役時代の仕事を続けられるのは幸せです。週2回、日中に数時間働くだけですが、体を動かすのは気持ちがいいし、何より経験を生かすことで人に喜んでもらえる。月約2万円の収入以上に、地域社会と繋がっている実感が健康の秘訣になっています」
4年前、脳梗塞で倒れた妻の介護を機に、33年間営んだそば屋を畳んだ小泉寛さん(79)は明るい声で話す。
自宅兼店舗を処分して移り住んだ栃木県那須町のサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)「ゆいま~る那須」で月曜と木曜のランチ時に自慢の手打ちそばを入居者らに振る舞うのが「一番の生きがい」だという。
この施設は、「終の棲家」の新しい形として全国から注目を集める日本版CCRC(継続的ケア付き高齢者コミュニティ)のモデルケースのひとつだ。
CCRCとは、健康なうちにサ高住などの施設に入居した高齢者が仕事やボランティアなどを通じ、地域社会と関わりながら暮らすコミュニティ(共同体)を指す。必要に応じて医療・介護サービスを受けられるのはもちろん、運営する事業者が仕事を紹介してくれるケースもある。
発祥の地であるアメリカでは約2000か所に75万人超が暮らし、今なおその規模は拡大中だ。日本でも6月30日、政府の地方創生政策「まち・ひと・しごと創生基本方針2015」が閣議決定され、その中で元気な高齢者の地方移住などを促す地域づくりの柱として「日本版CCRC」の推進が盛り込まれた。
日本版で想定されているのは、現在のところ、東京に代表される大都市から地方への移住である。