東京五輪のエンブレムにおける「パクリ騒動」。デザイナーの佐野研二郎さんはパクリを明確に否定しました。ここではパクリかオリジナルかの議論はしないでおきます。今回私が非常に感じたのが広告人と一般社会の意識差についてです。
文/中川淳一郎(ネットニュース編集者)
広告人といっても、新聞チラシの求人情報とかスーパーのチラシの世界の話ではありません。年間数百億円規模の広告予算を握っている日本有数のクライアントや、国・自治体系の巨大プロジェクトにかかわる広告人のことです。こうしたプロジェクトには大手広告代理店が入り、スタッフには著名クリエーター(社員・フリー両方)が参画します。フリーのクリエーターは元々は大手広告代理店にいて、目覚ましい活躍を遂げた末に自分の事務所を立ち上げ、さらに活動の範囲を広げていきます。通常の仕事は、クライアントや大手広告代理店から御指名で「○○さんにやっていただきたい!」と三顧の礼で迎え入れられます。
当然広告代理店もエース級の営業を揃え、しばし「ドリームチーム」が結成されます。フリーになった著名クリエーターは、腕だけでなく人望もあり、様々な趣味を持ち、知り合いも大勢いて多くの人から慕われる存在です。大きな仕事をしつつも、お金にならない文化的活動やボランティア的仕事もし、ますます人格者としての地位を高めていきます。クリエイティブ系を目指す学生からすれば、本当に憧れの存在で、芸能人と比較できぬほど尊敬しております。
今回、佐野さんに対し、ネット上ではバッシングの嵐でした。ほとんどは匿名の方々で、途中なぜか佐野さんを在日韓国人扱いし、勝手に「朴某」という本名があるとされ、五輪全体が在日に乗っ取られたイベントであるかのような扱いになっていくのでした。ネット特有の「ネガティブな話はなんでも在日のせいにしておけ」的法則が発動されてしまったのでした。嫌韓系のまとめサイトでも当件は多数取り上げられ、かなりのPVを稼いだことでしょう。
ここで立ちあがったのが同業者の方々です。著名クリエーターも含め、ツイッターやフェイスブックで多くの人が佐野さんを擁護したのですが、これが結果火に油を注ぐ結果となりました。基本的な擁護の内容は、「サノケンほどの実績ある人間がそんなことをする理由がない」「普段の佐野さんの仕事ぶりをしっているだけに考えにくい」「デザイナーという仕事はミリ単位の緻密な作業でオリジナルを作る。佐野さんもそうやっただけだ」といったところでしょうか。
佐野さんの普段のお人柄を知っていれば当然のコメントでしょう。しかし、これはネットという荒くれ世界では多分通用しないんですよ。一旦サイバーカスケード(一方向の叩く論調になること)状態となってしまうと、一撃で黙らすだけの証拠を提示しない限りは「燃料投下」になってしまうんですよね。擁護した結果、あまりにもバッシングをくらい、「ツイッターやめます」宣言をする方も出ました。
今回の件で、本人が否定している以上、佐野さんが業界関係者及びクライアントからの信頼を失ったとは思えません。過去の実績というのはそこまで信用をもたらしてくれるものですから。