自由に生きるのは難しい、と長野県の諏訪中央病院名誉院長でベストセラー『がんばらない』で知られる鎌田實医師は言う。幼少期からのみずからの生い立ちを振り返りながら、本当の自由を得ることについて鎌田氏が語る。
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これまで幾度も話しているが、生みの親に棄てられ、育ての親に引き取られたが、そのときのことは記憶にない。その時、僕は1歳10か月。記憶がないだけで、いろんなことを感じる力はあったはず。
ある日、住む家が変わり、見たこともない人を「お父さん、お母さん」と呼ばなければいけなくなって、悲しかったに違いない。本当の父母が恋しかっただろう。
けれども、ここで失敗したらまた違う家に行かされて、これ以上悲しい思いをすることになる。そうならないように、いい子を演じ始めたのだと思う。
育ての母は心臓病を患い、入院していることが多かった。父は夜中まで仕事があったから家にはいない。自分一人で生き延びなければいけないので、よその家でご飯をごちそうになる。どこでも生きるのが上手になった。1歳10か月からずっと僕は、無意識にいい子を演じ続けてきたのだ。
大学を卒業し赴任した病院でも、地域医療を成功させるために地域にとってのいい子を演じてきた。仕事をするだけでなく、地域の人と一緒にご飯を食べ、酒を酌み交わし、健康づくり運動にエネルギーを注いだ。
町の人からもよくしてもらい、諏訪大社の御柱祭の御柱にも乗せてもらった。地域にとってのいい子を演じていたからである。やがて、マスコミにも取り上げられることが多くなった。そのときも、期待に応えるようなスタンスでしゃべっている自分がいた。
家族の中でも、いい夫やいい父を演じてきたように思う。誰にも無理やりコントロールされていないのに、無意識に自分自身で自分を枠にはめていたようだ。
東日本大震災後、毎年、被災地である東北の中学校や高校で「命の授業」をしている。先日も福島と宮城の高校で講演を行なった。
これまで自由の大切さを語ってきたのだが、今年はちょっと自分の中に迷いが生じている。自分は自由に生きてきたつもりだったが、果たして本当にそうだったのだろうか。いや、むしろ、逆だったのかもしれない──と。だから今年の講演会で正直に話した。