最近はできるだけ残業を減らし、仕事以外の育児、家事、あるいは自己投資、余暇の充実など、仕事の後の時間を有効活用する動きがあります。「ワークライフバランス」といわれたりしますね。これは普通に考えれば良いことで、仕事が最優先で他のすべてを犠牲にする慣習が減ってきたことの現われとも捉えられます。
一方、伝統的な解釈は、「景気がピークを過ぎて企業が生産を減らし始め、今後の景気が危ぶまれる」というものです。そうなると今後は再びボーナスが減ることになるだろう、という予測が立ちます。
もう一つ別の解釈があります。労働力不足で働き手の確保が難しくなったため、雇用条件を改善し、残業を減らして労働条件を良くすると同時に、非正規雇用ではなく正規雇用を拡大して人材を確保する動きが広まっていることを示しているとも考えられます。
我が国の失業率は3%台前半と先進国の中でも極めて低く、人材不足が鮮明になっています。また、非正規雇用の代表格であるパートの担い手であった主婦も不足してきました。雇用環境の改善、社会の価値観の変化から、子供を産んでも退職する女性の働き手が減り、育児休暇を取得した後に元の職場に復帰したり、正社員として転職したりする人が増えました。つまり、パートで働く主婦がいなくなってしまったということです。
少子化によって学生のアルバイトの数も少なくなってきました。コンビニや牛丼チェーンでも、高齢者や外国人学生の働き手が増えてきたと感じることが多いのは、こういう背景があります。
これらの状況を総合すると、人手不足という背景に、現在の景気過熱という状況も加わり、賃金が上昇してきているのは当然なのです。
●小幡績(おばた・せき)1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。
※週刊ポスト2015年8月14日号