人類は長い歴史の中で、右肩上がりに寿命を延ばしてきた。しかし今の医学では200歳や300歳まで生きられるとは、とても思えない。ところが、「人間の寿命は1000歳以上に延びる可能性がある」という研究者がいる。まさに「ケタ違い」の予見で世界を驚かせているのは、イギリス・ケンブリッジ大学の生物医学老年病学者、オーブリー・デ・グレイ博士である。
博士はロンドン生まれの52歳。もともとはコンピュータ工学者だったが、20年前から老化に関する研究を始めた。現在は米カリフォルニア州にある、長寿学のメディカルリサーチを専門とした財団「SENS」の主任研究員も務めている。
「この研究を始めたのは、老化が人間にとって最大の問題だと考えたからです。生物学者は老化をスローダウンさせることを目指しますが、それでは老化を止めたことにはならない。私は老化によるダメージを回復させるべきだと考えました。それにより、人間の寿命は飛躍的に延ばすことが可能だと考えられます」
寿命を延ばすためにデ・グレイ博士が考えた戦略は、工学者ならではの発想に基づくものだった。
デ・グレイ博士は、人間が老化するのは、体に溜まる「ゴミ(老廃物)」が原因だと考える。だから、古い自動車の錆を取り除き、壊れた部品を交換するように、溜まったゴミなどを除去すれば老化を防ぐことができると考えた。
博士の著書『老化を止める7つの科学─エンド・エイジング宣言』(NHK出版)で挙げられた長寿を阻む原因は、次の7つだ。
【1】組織の硬化、【2】細胞内にあるミトコンドリアの突然変異、【3】細胞内に溜まるゴミ、【4】細胞外に溜まるゴミ、【5】衰えて機能しない細胞、【6】死んだ細胞からの毒素、【7】細胞核の突然変異=がん
「この中でとくに鍵を握るのは、ミトコンドリアの突然変異をどう解決するかでした。これは過去30年にわたって多くの研究者が断念した難問で、本を出した時点(2008年)でも成果が現れていませんでしたが、現在は成功の目処が立っています。動脈硬化の原因となる細菌を見つけ、その撃退に成功したことが大きな足がかりになりました」