世の中、「下流老人」「老後破産」流行りのようだ。テレビ、書籍、雑誌の特集が、「下流老人は死亡率3倍、うつ5倍」などと定年前後の世代の不安を煽り立てる。しかし、である。ようやく定年世代は誰はばかることなく欲するところを実行する時間と権利を得たのである。
むしろ老人になったいまこそ、不健康で不健全な生活を謳歌するがよかろう。シニア世代よ、これまで仕事や家族のためにできなかった「不良」な生き方を、してみようではないか。作家・筒井康隆氏が特別寄稿した。
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この特集「不良老人のススメ」の巻頭言を不良老人代表として書かせていただくのはたいへん名誉なことである。その一方、八十歳になってもまだこのように著述業で収入を得ている自分が、若くして定年退職した人たちに対して申し訳ないという気持もある。しかしこれは昔から「小説書きなどは不良のすること」と言われてきたように、この歳になるまで不良であり続けてきたことが大いに幸いしている。
語義通りの意味とは少し違うが「ならず者の傑物」と言われてきた自分がいささか誇らしくもあるのだ。実際にも作家の中で特に真面目だった人はずいぶん早死にしているかに見えるのであり、自分より年上の作家の名を列記し、亡くなった人の名の上に赤線を引いてけけけけけなどと笑っている自分を悪いやつだとは思うが、このあたりが不良の真骨頂ではなかろうか。
定年退職してまず一番に幸せを感じるのはストレスからの解放である筈だ。ところが仕事人間であった人たちの多くが自覚するのは逆に仕事がないためのストレスなのである。なぜそれまで内在していた筈の不良性によってストレスから脱することができないのだろうか。
通常は制度内で悪いこととされている飲酒や喫煙が自由にできるだけでもずいぶんストレス解消になる筈であり、それ以外にもちょっとした悪いことは数えきれないほど存在する。あなたのようにいつまでも若くいられるにはどうすればいいでしょうかと訊ねられた人が、あなたも若い頃ずいぶん馬鹿なことをした筈だ、それをもう一度やりなさいと答えたそうだが、これは正しい。