市場が成熟するということは、基本的には人々の暮らしも豊かになるはずだ。そして成熟した暮らしに、現在のマクドナルドが入り込む余地はない。12日の会見でサラ・カサノバは「業績の起爆剤はメニュー」とした。今後地域の名産品を使った商品や、海外のマクドナルドの人気メニューを売り出すのだという。
だが、全国のご当地素材を使ったハンバーガーは、ロッテリアなどの競合がとうの昔に手をつけている。これほどの情報化社会で遠方の名産品や、見ず知らずの”海外の人気メニュー”にどれほどの物語を与えられるのだろうか。敵は、わかりやすい競合のファストフードやファストカジュアル店ばかりではない。綿密なマーケティングで知られるコンビニは、最近では都心の店舗でもイートインスペースを確保しはじめた。ドーナツやホットスナック、淹れたてコーヒーなど、レジまわりの充実ぶりはファストフードにとって大きな脅威となっているのは言うまでもない。
ファストフードとして世界的にも稀有な成功例であるタコベルは、食事だけでなく「スナック」としても顧客に親しまれ、しかもメキシコ/アメリカ南部/西海岸の食文化をベースにしたメニュー構成となっている。土着の食を下敷きにしたファストフードだからこそ、「懐かしい自分たちの味」となっていく。
成熟した現代は低成長時代でもある。それは言い換えれば相互扶助が必要な時代とも言える。生活者は気に入りさえすれば店頭に足を運び、サイフのひもをゆるめることもある。だが一方、サービス提供者の私利私欲などの思惑が透けて見えた瞬間、テコでも動かなくなる。形ばかりのブランドや子供だましのアイテムに頼ることなく、マクドナルドは客の足を店のほうへと向かせる「物語のある味」を作り出せるのだろうか。