中国情勢が大揺れだ。中国人民銀行が8月11日から3日連続で人民元の対ドルレートを切り下げたと思ったら、12日には天津で爆発事故が起きて大惨事になった。
先の上海株価暴落と合わせて、背景に習近平政権首脳部と江沢民派(上海閥)、および胡錦濤派(共産主義青年団)との熾烈な権力闘争があるのか、ないのか。
真相はともかく、習政権による反腐敗運動で痛めつけられてきた反体制派にとって、一連の事態が反転攻勢をかける絶好の機会になったのは間違いない。いまや習政権は完全に足元が揺らいでいる。
全体情勢を整理しよう。まず7月8日から始まった株価暴落だ。これは「江沢民派が仕掛けた空売りが発端だった」という見方が定説になりつつある。暴落に慌てた政権が、本来は市場と無関係の公安省を動員して捜査に乗り出した事実がそれを如実に裏書きしている。
政権は「空売りを仕掛けた側には政権を揺さぶる意図がある」と見ているのだ。
人民銀が突如として人民元の切り下げに踏み切ったのも、なんとかして景気の落ち込みを防がないと反体制派につけいるスキを与えてしまう、と焦ったからだろう。
株価暴落そのものは1年前から始まっていた不動産バブル崩壊を後追いしたにすぎない。シャドーバンキングで溢れたマネーがバブルを起こしたものの、実需を無視した投資は結局、全国にゴーストタウンを作っただけだった。
肝心なのは、むしろ実体経済のほうだ。公式発表はいまだに7%成長をうたっているが、そんな数字を鵜呑みにして伝えているのは、いまや中国お抱えのエコノミストと日本のおめでたいマスコミくらいである。本当にそんなに調子がいいなら、そもそも元切り下げで輸出にドライブをかける必要はない。
政権が心配しているのは株価暴落もさることながら、景気悪化で不満が高まった国民の暴発である。中国ウォッチャーの石平氏によれば、中国ではフランス革命を分析した歴史家、トクヴィルの書物『旧体制と大革命』(和訳本は、ちくま学芸文庫)が大人気になっているという。指導部も国民も体制崩壊の先例を学んでいるのだ。