20年前、国会に「戦後50年決議案」が上程された際、保守派団体は500万人の謝罪決議反対署名を集め、自民党参院幹事長だった村上正邦氏に働きかけて決議案の修正を突きつけた。
だが、時の自民党執行部は決議文の文言を巧妙に書き換えて日本の植民地支配や侵略への謝罪を盛り込んだ決議を衆院で採択した。「騙された」と激高した保守派団体幹部たちは自民党本部で村上氏のネクタイをつかみ、参院での決議反対を要求した。村上氏はこういう。
「私は絶対に参院では決議させないと決めたので、国会決議は流れたんです。それで村山さんは首相談話という形で発表することになった。それに比べて安倍さんの談話は心がこもっていないね」
その記憶があるから、安倍首相は最後まで「おわび」しないことにこだわったのだろう。だが、一部の応援団には誤魔化しは利かなかったようだ。
談話発表後、首相のフェイスブックには、
〈長く書いて目くらましにしているだけで、河野、村山談話を継承しているにすぎません。もう、愛想が尽きました〉
〈安倍! オレはお前だけは信じていた。でも、お前も負け犬なんだな。もう、支持しない〉
といった熱狂的な安倍支持者の書き込みが増え、コアな応援団の安倍離れが始まっている。
皮肉な現象も起きた。安保法案強行というタカ派路線で急落した内閣支持率が、“安倍色”を薄めた70年談話で再上昇したのだ。
そうした民意に気づいてこれからの政権運営で軌道修正を図るか、それともあくまで「特定の保守層」を向いた路線に邁進するのか、その選択で政権の行く末が決まってくるはずだ。
※週刊ポスト2015年9月4日号