安倍晋三首相が発表した戦後70年談話は、戦後50年談話である「村山談話」を事実上撤回する目的で発案されたが、連立政権を組む公明党の顔色も窺う必要があった。そのために、「おわび」や「植民地支配」といった言葉を盛り込んで玉虫色の巧妙な談話に仕上げた。
しかし、そのままでは保守派の失望を買いかねない。安倍首相はそれを防ぐために談話に「私は」という主語を敢えて入れず、さらには日露戦争がアジアやアフリカの人を勇気づけた、など保守派が喜ぶ数々のフレーズを散りばめた。
安倍首相が国際世論より国内の特定の保守層に目を向けるのは、「苦しい時に支えてくれた」という思いが強いからだ。
3年前の自民党総裁選の際、安倍首相は党員投票でも国会議員票でも2位だったが、自民党本部の前には200人あまりの熱烈な安倍支持派が集まり、「安倍さん頑張って」の声をあげた。首相のフェイスブックでは、中国や韓国に強い姿勢を示すとコアな支持者から「いいね!」が押され、首相はそれを“国民の声”と受け止めてきた。だから安倍首相は応援団の離反に神経質になる。
「安倍政権がTPP交渉に参加し、消費税を増税したとき、保守派の一部が“安倍は裏切った”と反対デモを企画して永田町で抗議行動を始めたことがある。官邸サイドは焦って、複数の保守論客に相談したほどだ」(保守系団体幹部)
とくに、支持率と不支持率が逆転した状況の中で、安倍談話によって応援団が「反安倍」行動を起こすようなことになれば政権の屋台骨が危うくなる。裏切られた時の保守派の怒りは激しい。実は、過去の談話の際にも、似た状況があった。