安倍政権が、大学改革でも大きな混乱を巻き起こしている。文部科学省が国立大学に対して「人文社会科学系や教員養成系の学部・大学院の組織廃止・転換」を通知したのだ。この教育改革には“致命的な欠陥”があると指摘する大前研一氏が、大学教育に求められる「リベラルアーツ(教養)」について解説する。
* * *
文部科学省は今年6月、国立大学法人に対し「社会に求められる人材」を育てるために「速やかな組織改革」を要求する通知を出した。その中で「とくに教員養成系や人文社会科学系の学部・大学院の組織廃止や社会的要請の高い分野への転換」を求めたことが大きな波紋を呼んでいる。
欧米では、文学、哲学から歴史、地理、さらに美術や音楽に至るまで、基礎教養的な領域を学ぶ「リベラルアーツ(一般教養)」が、極めて重要視されている。たとえばアメリカには、レベルの高いリベラルアーツカレッジが中西部を中心にいくつもあり、そこを卒業していったん就職し、再び大学院に入ってMBA、弁護士、医者などの資格を取得する人が非常に多い。
そして私の経験から言えば、グローバルな仕事をする時に最も役に立つのは(もちろん英語などの外国語ができることが前提だが)仕事に関する知識や議論する力よりも「幅広い基礎教養」である。ディナーなどの席で、その国や地域に関する歴史、地理、音楽、美術などについて豊かな会話ができる教養があれば一目置かれ、単なる仕事相手としてではなく、人間同士としての絆が深まるのだ。
だから私は、文科省が今回のような通知を出した理由が全く理解できない。対象となった学部・大学院が「社会に求められる人材」を育てられていないとすれば、その原因はあくまで教育の「やり方と内容」であって、リベラルアーツとしての深さが足りないからだ。