安倍晋三首相は就任以来、中国、ロシア、北朝鮮などとの長年の懸案を解決に向けて動かすと意気込んでいたが、なかなか前に進んでいない状況にある。
そこで本誌は伝統企画・覆面官僚座談会を緊急招集した。出席者の財務省中堅A氏、経産省中堅B氏、外務省若手C氏、文科省若手D氏に安倍政権の外交敗戦の原因がどこにあるのかについて語り合ってもらった。
──安倍首相は「内閣人事局」を設置して各省幹部の人事権を握り、ポリティカル・アポイントメント(政治任用)でお気に入りの官僚を重用してきた。政治主導で霞が関を動かすためには必要な改革だったと思うが、人事は信賞必罰、成果主義で公平に行なわなければ、いずれ官僚は総理の指示に従わなくなるのではないか。
財務A:外務官僚で別格的に総理の信頼が厚いのが斎木昭隆・次官とOBの谷内正太郎・国家安全保障局長という点では異論はないだろう。その谷内さんは特命でロシアを何度も訪問して平和条約交渉再開の準備工作を担ってきた。
安倍首相は日朝交渉のらちが明かないだけに、この秋、プーチン(大統領)を来日させて「北方領土返還交渉開始」を大々的に打ち上げようと期待していたが、そのシナリオはメドベージェフ(首相)の択捉訪問で白紙になった。それでも、総理がこの2人を切ることは絶対にできないでしょう。
経産B:ロシアは昨年のウクライナ侵攻で国際的批判を浴び、ドイツのメルケル首相はエルマウ・サミットにプーチンを呼ばなかった。そこで外務省は「来年の伊勢志摩サミットにプーチンを招待し、G8会合を再開する」と打診して領土交渉に引き込もうとした。
しかし、米国はじめ他のG7諸国がそんな日本の独断を認めるはずがない。手柄を焦った外務省の根回し不足だったのではないか。
外務C:そんな単純な話ではありません。メドベージェフのパフォーマンスは織り込み済み。プーチンは日本の経済ミッションを期待しており、交渉のテーブルに着く用意はあるはずだ。岸田文雄・外務大臣のロシア訪問はあくまで一時的な延期だし、プーチンとの首脳会談も年内に国際会合に合わせて実現できる可能性は十分に残っている。