【著者に訊け】田崎健太氏/『真説・長州力 1951-2015』/集英社インターナショナル/1900円+税
勝新太郎や伊良部秀輝、虚実入り混じる対象の中に一握りの真実を探りあてる周到さにおいて、田崎健太氏(47)の作品群は一貫した熱さと冷静さを併せ持つ。その彼にして本書『真説・長州力』ほど厄介な題材もなかったという。よく言えば劇的、悪く言えば予定調和な〈プロレスの秘密〉を、総勢60名を超す取材対象は共有し、〈不思議な連帯感〉で結ばれていたのだから。
例えば執筆をほぼ終えたある日のこと。〈当初、あなたの言葉をぼくは信用していなかった〉と正直に明かした著者に長州はにっこり笑ってこう言った。〈「なぞなぞは凄いです。折角取材をしてもらっているのに、失礼な話ですよね」〉──。
〈この本は彼の言葉を手がかりに“なぞなぞ”を解いていったようなものだ〉
虚構に生き、だからこそ嘘のない肉体を鍛え抜く男たちの実像に迫る700枚。そこには敵味方や恩讐すら超えた固い絆と昭和のプロレスの歩みが透けて見える。
「長州さんは現役時代は寡黙で怖い人という印象が強かったと思う。ところが会ってみると、彼のお酒は実に穏やかで、〈ぼくはいつもここです。端っこがいいんです〉と言って店の隅に座って訥々と話をする。その長州さんが2003年にWJプロレスを立ち上げ、〈ど真ん中のプロレス〉を追求した理由には、僕自身、胸を衝かれました」
長州力こと吉田光雄、本名・郭光雄は1951年山口県生まれ。小学校では教師にすら〈朝鮮の子どもは殴られても痛くないんだよな〉と差別された在日二世の彼は、〈朝鮮人という言葉を聞くと、魔法にかかったかのように自分が小さくなっていく〉と当時を振り返る。
尤も体格がよく、喧嘩も強い〈最強の中学生〉は、桜ケ丘高校レスリング部にスカウトされ、国体で優勝。専修大3年の秋にはミュンヘンオリンピック韓国代表として出場も果たしている。
「長州さんの何が凄いって、オリンピックに出るくらい本当に強いから凄いんです。言葉も習慣も違う選手団の中で孤立した経験もある彼は、〈ぼくは九〇パーセント、日本人です〉と言っていて、在日であることを全く隠していない。周囲が気を使って事実を伏せる度に複雑な思いを抱えてきたのは当の長州さんだと思います」