これまで供給過多だった中国不動産市場の崩壊を、最も象徴するのが、街のゴーストタウン化である。中国語で「鬼城(グイチェン)」と呼ぶこの現象は、もはや覆い隠すことのできない病症として、中国のそこかしこで見られる。ノンフィクションライター・安田峰俊氏が現地をレポートする。
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地平線の果てまで人影ひとつない荒野を貫く、1本の高速道路。やがて小さな丘を越えた先に、場違いな高層建築の群れがいきなり現れた。
市内に入る。雲ひとつない晴天の下、マンション群が無人の道路に影を伸ばす。居住者の気配はない。シャッターを閉めた店舗も多い。人工物だらけの空間なのに、周囲の草原と変わらない静寂だけが街を支配していた。
ここは北京の北西300kmに位置する、内モンゴル自治区ウランチャブ市集寧新区。往年は遊牧民の楽園だったこの場所は、近年不名誉な形で注目を集めつつある。すなわち、街の「鬼城」化だ。
車両もまばらな八車線道路を通り、市政府へ向かう。10階建ての庁舎は敷地面積13万平方m、職員1万2000人を収容可能だ。一昨年秋の完成当初、都市規模に見合わないと批判が殺到した建物である。
庁舎の南には広大な公園と、三角形を組み合わせた珍妙な形の市営体育館が位置する。「緑化」のつもりか、周囲一面に緑色のソフトマットが敷き詰められていた。
「許可の無い者は入るな!」
体育館に入ると警備員に怒鳴られた。施設は稼働中のはずだが、市民の利用を想定していないのだろうか? 隣接する真新しい市営博物館も、やはり長期の休業中だ。
街には大量の「爛尾楼(建築中に放棄された幽霊ビル)」も目につく。鉄骨をむき出しにした数十階建てのマンションや高級ホテルが、無残な姿を晒していた。
「2010年に就任した市のトップ・王学豊氏の責任でしょう。彼は3年間で70万人の人口増を見込み、610万平方kmの宅地造成を計画。農地を1畝(667平方m相当)あたり数千~1万元(約20万円)の廉価で接収して投資を募り、開発を進めました」
案内してくれたモンゴル族の企業家、バルス氏(仮名)は話す。だが、田舎町のウランチャブ市は住民流出が激しく、人口は3年間でむしろ減少した。投資熱は去り、建設現場での給料遅配の頻発から労働者も逃亡。現在の光景が出来上がった。