ライフ

【著者に訊け】羽田圭介氏 『スクラップ・アンド・ビルド』

【著者に訊け】羽田圭介氏/『スクラップ・アンド・ビルド』/文藝春秋/1200円+税

 情報に思考や感情を侵食され、自らの生の輪郭すら実感しにくい現代にあって、例えば「トーキョーの調教」(前作『メタモルフォシス』所収)の主人公は〈自分が、自分の身体の管理者になりたい〉と切望し、マゾヒズムの快楽に溺れていった。

 一方花粉症と腰痛を抱え、しかも無職の〈健斗〉は、そんな無為な日々に抗うように肉体と人生の再構築を試みる。先日、第153回芥川賞を受賞した羽田圭介作、その名も『スクラップ・アンド・ビルド』である。

 東京郊外のニュータウンで育ち、姉が嫁いだ今も母と同居する彼は、求職活動の傍ら、長崎から引き取った祖父を介護する〈孝行孫〉の地位に安住していた。が、〈目も鼻も腰もやられ〉た28歳と、〈主観的な苦痛や不快感だけは、とんでもなく大きい〉87歳は〈できることなど、なにもない〉点でシンクロし、無力な肉体に気力すら奪われた同類なのだ。

 果たして人は肉体の奴隷なのか。否とばかり、ある計画を思い立つ健斗の迷走ぶりが可笑しくも身につまされる、全く新しいタイプの“介護小説”である。

 2003年、弱冠17歳で文藝賞を受賞。以来、若さを強調されてきた彼も今秋で30歳を迎え、実績、筆力ともに充実する中での芥川賞受賞となった。

「特に感慨はないんですが、一ついいことがあるとすれば、自分は芥川賞のために小説を書いているわけじゃないと、芥川賞をもらって初めて言えることですかね。

 最近は映画や演劇ですら、目に見える結果を求められ、わかりやすい極論ばかりがはびこる中、小説はそこから弾き出された余剰なものも表現できる最後の砦だと思うんです。特に個人を通して世界を描こうとすると、身体は外界と繋がる上で欠かせない要素になる。

 みんな自分の思考や精神は自分のものだと勘違いしているけれど、実は人間の思考なんて大したことない。ネットでも何が得で得じゃないとか、さも自分は賢いみたいに言うけれど、その判断には意志や思考が本当に介在するのか。その中で人間性を取り戻すとはどういうことかを、特に最近は切実に考えたりします」

関連記事

トピックス

石川県の被災地で「沈金」をご体験された佳子さま(2025年4月、石川県・輪島市。撮影/JMPA)
《インナーの胸元にはフリルで”甘さ”も》佳子さま、色味を抑えたシックなパンツスーツで石川県の被災地で「沈金」をご体験 
NEWSポストセブン
大阪・関西万博で天皇皇后両陛下を出迎えた女優の藤原紀香(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
《天皇皇后両陛下を出迎え》藤原紀香、万博での白ワイドパンツ&着物スタイルで見せた「梨園の妻」としての凜とした姿 
NEWSポストセブン
何が彼女を変えてしまったのか(Getty Images)
【広末涼子の歯車を狂わせた“芸能界の欲”】心身ともに疲弊した早大進学騒動、本来の自分ではなかった優等生イメージ、26年連れ添った事務所との別れ…広末ひとりの問題だったのか
週刊ポスト
2023年1月に放送スタートした「ぽかぽか」(オフィシャルサイトより)
フジテレビ『ぽかぽか』人気アイドルの大阪万博ライブが「開催中止」 番組で毎日特集していたのに…“まさか”の事態に現場はショック
NEWSポストセブン
隣の新入生とお話しされる場面も(時事通信フォト)
《悠仁さま入学の直前》筑波大学長が日本とブラジルの友好増進を図る宮中晩餐会に招待されていた 「秋篠宮夫妻との会話はあったのか?」の問いに大学側が否定した事情
週刊ポスト
新調した桜色のスーツをお召しになる雅子さま(2025年4月、大阪府・大阪市。撮影/JMPA)
雅子さま、万博開会式に桜色のスーツでご出席 硫黄島日帰り訪問直後の超過密日程でもにこやかな表情、お召し物はこの日に合わせて新調 
女性セブン
被害者の手柄さんの中学時代の卒業アルバム、
「『犯罪に関わっているかもしれない』と警察から電話が…」谷内寛幸容疑者(24)が起こしていた過去の“警察沙汰トラブル”【さいたま市・15歳女子高校生刺殺事件】
NEWSポストセブン
豊昇龍(撮影/JMPA)
師匠・立浪親方が語る横綱・豊昇龍「タトゥー男とどんちゃん騒ぎ」報道の真相 「相手が反社でないことは確認済み」「親しい後援者との二次会で感謝の気持ち示したのだろう」
NEWSポストセブン
「日本国際賞」の授賞式に出席された天皇皇后両陛下 (2025年4月、撮影/JMPA)
《精力的なご公務が続く》皇后雅子さまが見せられた晴れやかな笑顔 お気に入りカラーのブルーのドレスで華やかに
NEWSポストセブン
大阪・関西万博が開幕し、来場者でにぎわう会場
《大阪・関西万博“炎上スポット”のリアル》大屋根リング、大行列、未完成パビリオン…来場者が明かした賛&否 3850円えきそばには「写真と違う」と不満も
NEWSポストセブン
真美子さんと大谷(AP/アフロ、日刊スポーツ/アフロ)
《大谷翔平が見せる妻への気遣い》妊娠中の真美子さんが「ロングスカート」「ゆったりパンツ」を封印して取り入れた“新ファッション”
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
「週刊ポスト」本日発売! 高市早苗が激白「私ならトランプと……」ほか
週刊ポスト