7月に発売開始された回転寿司チェーン・無添くら寿司の「すしやのシャリカレー」(以下「シャリカレー」)の派生バージョン「すしやのシャリカレー 甘口」(以下「甘口」)が9月18日に発売開始された(いずれも350円)。開発に約2年かけたシャリカレーだが、元々甘口も準備はしていたという。
スパイシーなシャリカレー発売以降「辛口は苦手」「子供にも食べさせたい」など、甘口発売に対する要望が多数寄せられた結果なるべく早く出すことを目指し、このタイミングでの発売開始となったようだ。子供が多数訪れる週末に向けた対応強化の側面もある。シャリカレーとの違いは、バナナを追加し、マンゴーの種類を高級種である「アルフォンソマンゴー」に変更した点だ。色はシャリカレーの褐色に対し、甘口は黄色だ。
当初予測では3ヶ月で100万杯を売ることを見込んでいたシャリカレーだが、1ヶ月で50万杯を突破したことも甘口の早期発売開始を後押しした。
元々北大路欣也が「酢飯(シャリ)」のカレーを食べてそのウマさに大袈裟に驚くというCMもあり、「そんなにウマいのか?」「シャリとカレーなんて合うの?」といったいわば「おもしろ商品」「面妖なる組み合わせ」的扱いもあったのだが、蓋を開けてみれば「予想の1.5倍の早さの売れ行き」(同社広報宣伝部・辻明宏氏)となった。ライバル・はま寿司も「グリーンカレー」を出すなど「酢飯+カレー」は今年の夏、ちょっとした話題となった。
くら寿司がカレーを出した背景には、外食・中食(持ち帰り)業界の競争激化がある。今や回転寿司店のライバルは他の回転寿司店、カウンター寿司店、持ち帰り寿司店だけではない。コンビニもラーメン店もファミレスも含め、あらゆる業態がライバルだ。だからこそ、回転寿司店はスシローがラーメンやスイーツメニューを拡充するほか、くら寿司も天丼やラーメン、「KULA CAFE」としたプレミアムコーヒーの提供などサイドメニューの拡充を行っている。カレーもその一環だ。
「これまで回転寿司に来られなかった人にどうニーズを合わせるか、ということを考えました。専門店に負けない本格的な味、くら寿司でしか食べられないものを提供したいのです。ラーメンの場合は、元々魚を扱うだけに得意な魚介ダシを使い、ヒットしました」(辻氏・以下「」内同)
◆日本人なら寿司、ラーメン、カレー。ナマモノ食べられない人にも対応
肉のイメージが強いカレーはこれまでのノウハウは生きないのではないかと思われるが、同社には「商品開発部」があり、寿司に限らずラーメンや天ぷらのほか、賄いメシなどを作っていた。同部が作るカレーはウマいと10年前から社内で評判だったのだが、販売には至らず。だが、ラーメンがヒットしたため、同社の特徴を出したカレーを開発できないかを試行錯誤するようになった。
「元々サイドメニュー充実という方針はあり、デザートやコーヒーを追加で食べたい人に対応したかったのですが、カレーもその流れです。寿司を食べず、カレーだけを食べてもらうことも想定しています。ランチタイムは、牛丼チェーン等とのお客さんの取り合いがあります。職場の人同士でランチに行く時、寿司を食べたい気分の人もいれば、ラーメンを食べたい人もいます。
グループで来ても、ナマモノが食べられない人はいます。そういった人はラーメンだけを食べることもあります。日本の代表的なファストフードとしてラーメン、寿司、そしてカレーがあるわけですよ。ならば当社もカレーを提供したい。ワンストップソリューションと言いますが、『昨日はくら寿司で寿司を食べたな。じゃあ、今日はラーメン食べるか。明日はカレーにしよう』といった感じになればいいと考えました」
そこでカレー商品の開発を2年前に本格化させたが、当初はシーフードカレーや魚介ダシを入れたカレーを通常の白米に合わせることを考えた。だが、「待てよ、ウチには門外不出のシャリがあるだろ」と考え、シャリに合うカレー作りを行った。コクを出すには脂を多目にすれば良いが、シャリに合わせるという考え方から脂分は極力減らし、スパイスを充実させた。その間、毎月行われる社長立ち合いの試食会では20回以上のダメ出しをくらったという。2011年頃には「ビネガーカレー」という酢飯を使ったカレーが都内の複数カフェ等で提供され、「サッパリする」と評判だったことも背景にはある。
ネーミングは「寿司屋のカレー」や「酢飯カレー」なども候補に挙がっていたが、調査の結果「シャリ」という言葉自体の認知度が高かったことなどもあり、「シャリカレー」にした。シャリを使ったカレーなだけに、辻氏は「寿司をそのままトッピングにしても合いますよ」と語る。つまり、既存の「ハンバーグ寿司」を乗せればご飯を増量したうえで「ハンバーグカレー」になるということだ。魚の寿司を載せれば「刺身乗せカレー」になり、醤油をかけて一部を海鮮丼風にもできる。
◆甘口に「ワサビ」を入れてみたら…
売れ行き好調だったというシャリカレーではあるものの、「辛過ぎ」や「子供には食べさせられない」といった注文もあった。だからこそ「甘口」を登場させた。さらには「(すべてが溶け込んでおり)具がない」という異議申し立てもあったが、辻氏は「値段も上がるから仕方ないです。トッピングも是非ご利用してください」と語る。そして今回の甘口だが、一体どんな味に仕上がったのか。食に詳しい記者・編集者の漆原直行氏(42)はシャリカレーと甘口両方を食べたうえでこう感想を述べた。
「松屋のカレーも非常にスパイシーでおいしいのですが、シャリカレーは松屋と比べても遜色ない味ではないでしょうか。甘口は、スパイシー押しではないので松屋のカレーと単純に比較できませんが、カレーとしての完成度は高いと感じました。カレーはスパイスを効かせ、辛口にするほうが簡単なんですよ。何となく本格派カレーっぽい味になるから、色々誤魔化しがきくんです。甘口で、しかも単なるお子さま味にならず、大人が食べてもちゃんとおいしいルーに仕上がっていた。相当に研究を重ねたのでは?
味を誤魔化してない、という点では、シャリカレーのルーが脂っぽくないのも感じたことのひとつ。バターを多めに効かせたり、脂を多めに使ったりすると、楽に濃厚さを出せます。でも、脂分って食べていて飽きるのが早いし、胃もたれするし、カロリーだって格段に上がる。脂分に逃げてないからこそ、酢飯が活きるともいえます。過剰な脂分が酢飯の魅力を削いでしまうことがないです」
シャリカレーにはワサビを入れる客も多いそうだが、漆原氏は甘口の方がワサビは合うと語る。
「僕としては、すでにスパイシーなシャリカレーよりも、甘口にワザビを混ぜるほうがおいしいと感じました。子どもが残してしまった甘口をお父さんが食べる、なんて時にはワサビを混ぜてみたらいいのでは」
350円という価格は、牛丼店を意識しているという。かつてマクドナルドが山田邦子が出演するCMでカレーを売ったがいつのまにか消滅した。果たして「寿司屋のカレー」はこれから定着するか? 大人向け・子供向け両方が揃った今、これから味にもカネにも厳しい消費者の審査が始まる。