【著者に訊け】貴志祐介氏/『エンタテインメントの作り方』/KADOKAWA/1400円+税
ここに書いてある通りの手順を踏んだからといって、誰もが『黒い家』や『青の炎』、『悪の教典』を書けるわけではもちろんない。だとすればエンタメとは、小説とは何なのか、かえって原点に立ち返らずにいられない、不思議な実用書だ。
貴志祐介著『エンタテインメントの作り方』では、数々のヒット作を世に送り、新人賞の選考委員も務める著者が、特にエンタメ志望者に向けて創作の奥義を伝授する。
自身、大手生保を30歳で辞めて執筆に専念した経験を持ち、晴れてデビューしたのは37歳の時。国内外の作品に精通した圧倒的な読書量と〈論理〉を重視しつつ、読者の〈感情移入〉を操る緻密な構成力……。なるほど貴志氏ほど恰好の指南役も他にいまい。
「私自身、19年の作家生活を客観視できた部分もありますし、よく応募作や友人の習作を読んで思うのは、ミステリは人が死ななきゃいけないとか、形に縛られ過ぎなんですね。
セオリーはセオリーとして、本当にその人しか書けない発見を書いているかを選考委員は見ていて、ひいてはそれが読者を吸引する魅力になる。せっかくの素材を台無しにしてしまうのは惜しいし、ちょっとしたコツや陥穽(かんせい)に気をつけるだけで、作品は格段に良くなるはずです」
そこで本書ではアイデアやプロット、キャラクターなど、実践的な創作手法を全6章に亘って手ほどきし、貴志作品が生まれた舞台裏も併せて紹介される。
〈小説の本質は妄想〉であり、多くのアイデアは〈もし○○が××だったら〉という一見単純な仮定が起点となる。それが適切な舞台やキャラクター設定、情報収集や取材を経ることで、テーマを殊更に謳わずとも、〈物語が内包する主題が、読み進めるうちに自然に頭のなかにインプットされるような小説〉になるという。
「調べたことを全部書こうとしたり、話の辻褄を合わせるために説明過多に陥るのが、プロ・アマを問わず最もやってはいけないこと。それでいて〈わかりやすい〉と〈面白い〉をいかに両立させるかがエンタメの生命線で、作者が主人公に憑依して持論を滔々と述べるなど、野暮の極みです」