様々な歴史的背景によって海を渡ってやってきた在日韓国人から、戦後多くの傑物が生まれた。芸能人、スポーツ選手、経営者。しかし、祖国・韓国が、彼らを眺める視線は、決して温かいものではなかった。在日三世のジャーナリスト・李策氏がレポートする。
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この夏、韓国経済界を騒然とさせたロッテグループ創業家の経営権争い(*注)。在日韓国人1世で創業者の父・重光武雄(辛格浩)氏を味方につけた長男・宏之(辛東主)氏と、経営陣の支持を受けた次男・昭夫(辛東彬)氏の対立は、8月中旬の株主総会の場で後者に軍配が上がった。騒動は韓国における財閥企業の閉鎖的な体質問題に飛び火しており、しばらくは余韻を残しそうだ。
【*注/日韓にまたがる大企業であるロッテは。父・重光武雄氏の手綱のもと、日本のロッテを長男の宏之氏が、韓国ロッテを次男・昭夫氏がトップとして運営していた。しかし、90歳を超える武雄氏の影響力が徐々に失われるなか、事業規模の大きい韓国ロッテの昭夫氏が経営実権を握っていく。父と長男は経営権を取り戻そうとしたが、今年8月の株主総会で昭夫氏が支持を受け、父と長男は経営陣から外された】
その一方、ことの成り行きを見守ってきた少なからぬ在日韓国人の胸に、この騒動が複雑な思いを残したことを知る人は少ない。在日本大韓民国民団(民団)の関係者が憤りも露わに語る。
「韓国マスコミの報道にはあきれ果てました。在日同胞に対する無理解、歴史に対する無教養が露呈した」
この間、韓国のメディアにはロッテグループと、創業家の人々を揶揄する報道があふれた。とりわけ在日韓国人を刺激したのが、宏之・昭夫兄弟の韓国語に関する報道だ。
「両氏は幼少から成人するまでのほとんどを日本で過ごし、母国語と接する機会はないに等しかった。日本中に民族学校をつくった北朝鮮に比べ、韓国政府が在外国民の母国語教育に不熱心であるという背景もあります」(前出・民団関係者)
それなのに、宏之氏が日本語でインタビューに答えると、「財閥企業の経営者が韓国語も話せないのか」との非難めいた指摘が噴出したのである。