安倍晋三・首相は、安保法案成立後に祖父の岸信介・元首相と父の安倍晋太郎・元外相が並んで眠る富士霊園に墓参し、「国民の命と平和な暮らしを守るための法的基盤が整備されたことを報告した」と満足げに語った。
それ以降、気力に欠ける言動が目立つようになった。拉致問題についてかつては熱心だったにもかかわらず、昨年北朝鮮が拉致被害者の再調査について「1年をメドに報告する」と約束したのにそれを反故したことについては、(約1年が経過した)9月24日とその翌日の臨時国会閉会にあたっての会見では完全に“黙殺”した。
さすがにおかしいと感じた記者からその件について質問され、「誠に遺憾であります」と“らしくない”言い方をした。拉致議連のベテラン議員は「燃え尽き症候群になってしまったのではないか」と心配する。
確かに中国、韓国への外交姿勢にもその兆候が見えた。安倍首相は9月26日から訪米し、国連総会で各国首脳との立ち話外交を展開した。その中で、自ら朴槿恵・韓国大統領に近寄り、9月初めの朴大統領と習近平・中国国家主席の首脳会談について、「会談の成功をお祝いします」と祝辞を述べた。これも安倍首相らしくない。
この中韓首脳会談は朴大統領が中国の「抗日戦争勝利記念式典」(9月3日)に出席するため訪中した際に行なわれた。しかも、現地で朴大統領は「歴史は永遠に残るものなので、それを認めないのは手のひらで空を隠すのと変わらない」と安倍批判を展開していたからだ。
これまでの安倍首相は、靖国神社参拝をはじめ、「中国や韓国に下手には出ない」という強い外交姿勢を取ってきた。いくら10月末にソウルで日中韓首脳会談の開催を調整しているとはいえ、日本バッシングで一致した中韓首脳会談を「お祝い」するのは奇異に映る。
「燃え尽き症候群」は人事にも表われている。内閣改造では早くから主要閣僚を留任させる方針を打ち出した。