難民たちを乗せたボートがトルコ沖で転覆し、3歳男児を含む12人が死亡した。浪打ち際でうつぶせになっている3歳男児の遺体写真をきっかけに欧州各国は難民受け入れを拡大する方向に急転回したが、作家の落合信彦氏はこうした件を美談にするだけで良いのかと警告する。欧州各国では、「移民」をめぐる過去の諸問題も発生していた過去から落合氏が解説する。
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フランスは、多くの移民(難民ではない)にたびたび頭を悩まされてきた。
昨年、私がフランスを訪れ、パリ郊外のハイウェイを走っていたときに、高い壁に囲まれた地区が見えた。あとで聞くと、そこはアラブ系移民だけが住む地域で、治安が悪くフランス人はめったに入らない場所だという。壁は落書きだらけで、荒廃していた。
人口6600万人のフランスには、400万人以上の移民がいる。うち300万人が北アフリカ出身だ。ドゴール空港ではカウンターの向こうで働いているのはほとんど北アフリカ系の事務員だった。
2005年10月には、移民らによる暴動が起きた。パリ郊外で警察官が事件の捜査中に北アフリカ出身の若者3人を追跡中に、うち2人が逃げ込んだ変電所で感電死。「警察が追い込んだ」として、貧しい移民ら若者が暴動を起こし、それがフランス全土に広がった。3週間弱の間に1万台近くの車が焼き討ちされるなどして破壊された。
背景には、移民らの高い失業率があった。若年層の失業率が全国平均で約20%と高かった当時、移民の多い地区ではそれを大きく上回り40%以上にも上っていた。
今年1月に起きたシャルリー・エブド襲撃事件も、移民政策の負の側面が表出したものだ。12人を殺害した犯人は、アルジェリア系フランス人だった。事件以降、フランスではイスラム教徒やモスクなどへの嫌がらせが相次ぎ、「アラブは出て行け」などの落書きも見つかっている。