悲劇の連鎖は終わっていない──ジャーナリストの後藤健二さんらが「イスラム国」(IS)に殺害されてから半年以上が過ぎ、一部の報道ではISが支配地域を失い弱体化しつつあるように言われ始めた。しかし、実際にはまだまだ勢力を保っており、その最前線ではISに抗する者たちの凄絶な戦いが続いている。イラク北部のクルド自治区でISと戦う兵士たちの実像を、報道カメラマンの横田徹氏がレポートした。
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ウィーンを飛び立ったオーストリア航空機内には、多数のクルド人乗客に交じり、スーツ姿の欧米人ビジネスマン、ドイツ陸軍の軍服に身を包んだ将校の一団、Tシャツにカーゴパンツというラフな服装の民間軍事会社のコントラクター(傭兵)たちの姿がある。多種多彩な乗客の顔ぶれが、これから向かうクルド自治区の状況を物語っている。
イラク北部、クルド自治区の首都アルビル。石油の輸出により経済成長が著しく、大通りには洒落たカフェが並ぶ。
夜にはナイトクラブで酒を飲み、踊り狂う裕福なクルド人や外国人ビジネスマン。彼らを目当てに世界各国から集まる売春婦。そんな状況を見る限り、ここアルビルから80kmしか離れていない場所に「イスラム国」(IS)のイラクにおける拠点、モスルがあるとは信じ難い。
2015年6月、ISと戦うクルド自治政府の軍事組織「ペシュメルガ」を取材する為、アルビルからキルクークへと南下する。キルクークはイラク最大の油田地帯。今年1月にISの攻撃を受けたが、ペシュメルガが応戦して侵攻を食い止めた。現在もISとペシュメルガの睨み合いが続いている。
キルクークの南方カラダラ村にペシュメルガの最前線基地がある。ここはIS支配地域から1kmと離れておらず、ISの陣地が目視出来る。ペシュメルガの兵士に交じり、外国人義勇兵の姿があった。アメリカ人が多いが、カナダ人、イギリス人、フランス人など多様だ。
そのうちの一人、“ピンキー”と名乗る28歳のアメリカ人は、かつて米陸軍第82空挺師団に6年間在籍し、2007年と2008年に2度のイラク派兵を経験した戦闘のベテラン。ペシュメルガに入隊して1か月という彼に話を聞いた。