【著者に訊け】新野剛志氏/『キングダム』/幻冬舎/1600円+税
酒はあまり飲まず、金や女にも執着はなかった。それこそ〈犯罪者として、欲望が欠落しているのは、致命的だった〉と自嘲する男として、新野剛志氏は『キングダム』の主人公で元〈武蔵野連合〉リーダー、〈真嶋貴士〉を造形する。
「例えば人が人を殺す場合、大半は金か愛情が原因ですよね。でもそこにしか適性や〈居場所〉がない場合はどうなるのか、その強さや怖さを物語の中でシミュレーションしてみたかった」
世田谷と調布、三鷹の暴走族OBらから成る武蔵野連合は関東連合、中国残留孤児2世3世中心の〈毒龍〉は怒羅権(ドラゴン)を思わせ、いわゆる半グレ集団を巡る興亡劇は現実と見まがうほど。強い地元意識で結ばれた彼らは単なる暴徒を超えた事業力と資金力を誇り、真嶋はネット上に数々の伝説が流布する英雄と化していた。
暴力はなぜ人々を魅了してやまないのか。おそらくその一因には〈嫉妬と羨望〉があると、新野氏は言う。
「僕も関東連合の名前は、海老蔵事件の前にネットで知って、当初は芸能人絡みの噂に嫉妬心を刺激された野次馬の一人だったんですね。本書でも〈植草〉という若い刑事が、〈こいつら、ただの暴走族のOBですよ〉〈それが、金を手に入れて、美人モデルとかとセックスしまくってる〉〈世の中おかしいですよ〉と憤る場面がありますが、僕自身がそう思ってましたから(笑い)」
実際、2010年11月に西麻布で起きた11代目市川海老蔵暴行事件や、横綱朝青龍を引退に追い込んだ同1月の暴行事件。2012年9月に金属バットを手にした男たちが六本木のクラブ・フラワーを襲撃し、“人違い”による死者まで出した通称・フラワー事件等々、関東連合に関する虚々実々の黒い噂は今なおネット上を駆け巡る。
本書でも暴力団〈曳次組〉構成員〈平田〉が拉致され、虐殺された「西早稲田拉致殺害事件」の捜査にあたる警視庁組対四課刑事〈高橋〉は、自称・武蔵野連合通の植草の勧めで一連のスレッドを読み始め、寝食も忘れるほどハマってしまう。
「某有名女優から地元中学の先輩の話まで、とにかく読ませるんですよね。噂についても彼らは特に否定していないし、虚像も含めてあえて〈演じている〉部分があるんじゃないかな」