東京・世田谷にある特別養護老人ホーム「芦花(ろか)ホーム」。今年3月、ひとりの老女が家族に見守られながら静かに息を引き取った。最期を看取った同ホームの石飛幸三医師は、「死因は老衰死だった」と振り返る。
「この93歳の女性は食事ができなくなっても、あえて胃ろう(*注)や点滴などの延命治療はしませんでした。一日の大半を眠って過ごすようになり、最期は家族に見守られながら穏やかに息を引き取りました」
【*注:栄養などの摂取のために腹部に手術で穴をあけ、胃に直接チューブを入れて流動食を流し込む方法】
年老いて死を迎える女性を家族が見届ける様子はNHKスペシャル『老衰死 穏やかな最期を迎えるには』(9月20日放送)で紹介され、大きな反響を呼んだ。
番組は認知症や様々な病を抱えた、平均年齢およそ90歳の高齢者約100人が生活する芦花ホームに半年間密着。延命治療を施さず、徐々に人生の最終ステップに向かう人たちと見守る家族の姿を詳細に伝えた。
超高齢社会の日本では、そうした老衰による死者が増加している。1938年の9万8451人をピークに老衰による死者の数は減少を続けていたが、2000年に2万1213人で底を打った後、大幅な増加に転じ、昨年は戦後最高の7万5340人を記録した(厚労省『人口動態調査』)。この10数年でおよそ3.5倍に増加したことになる。全死因に占める割合を比べても、2000年の2.3%(死因順位7位)から昨年の5.9%(同5位)へと急伸している。
老いと向き合うとき、多くの人が不安を抱くのは死に至るまでの「痛み」や「苦しみ」だ。