牡馬クラシック三冠競走の最終戦、菊花賞の日はもうすぐ。ウォッカ、カネヒキリ、ヴィクトワールピサなど数々の名馬を世に送り出した調教師・角居勝彦氏による週刊ポストでの連載「競馬はもっともっと面白い 感性の法則」より、最も強い馬が勝つといわれる菊花賞を2004年に制した騎手にとって「難しい馬」、デルタブルースについての思い出をお届けする。
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菊花賞──3歳秋の3000mというのは独特のレース。いかに人馬一体になれるかが鍵です。
能力のある馬が夏場を越えて成長しすぎて、ジョッキーの指示を聞かなくなるケースも多い。たとえば春、皐月賞やダービーで好走した場合、夏休みに背中や腰の筋肉がものすごくパワーアップするものです。強い負荷の反動ですね。トータルの運動能力が急に上がる。陣営はそのギャップを把握していないと、馬が引っ掛かってコントロール不能に陥ることもあります。
逆に、春に芳しくなかった馬が秋の菊花賞でちょうどよく仕上がってくる場合もあります。そのへんの兼ね合いが面白い。
2004年、角居厩舎に初めてのGIをもたらしてくれたデルタブルースは難しい馬でした。一完歩が大きく、ちょっと見ると遅い印象ですが、時計は悪くない。
ただし細かく走ることは苦手。こういう馬はレース選びが難しく、初勝利は6戦目の2000mでした。そして中1週でダービートライアルの青葉賞(芝2400m)へ。適性距離と見たのですがさすがに相手が揃っていて13着。でも、秋の菊花賞を意識していたので、広い東京競馬場で格上挑戦をさせたかったのです。
その後、5月23日に2400mの500万下を勝って、放牧に出します。夏を越えて9月20日の2500m(5着)で復帰、10月2日の九十九里特別(2500m)で勝って、なんとか菊花賞に出られそうなぐらいまで賞金を積み上げました。